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いつごろからだろうか、彼の本に自分で描いた絵が載せられるようになった。いわゆるボタニカル・アートと言っていいものだが、とても心惹かれるものがあった。 それらの絵は、文筆業の傍ら描いているものと思っていたのだが、最近出た本を読むと、どうもそれだけに収まらなかったようである。 興味のあることだったので、その本『絵を描く日常』を紹介してみる。 まず、玉村豊男さんについて、奥付から簡単に紹介しておく。 <1945年、日本画家・玉村方久斗(ほくと)の末子として東京都杉並区に生まれる。東京大学文学部フランス文学科在籍中の1968年に、奨学金を得てフランス・パリ大学言語学研究所に留学する。しかし、大学革命の余波で講義再開が遅れ、それを奇貨として欧州各地を放浪する。 中東・東南アジア諸国を周遊して1970年に帰国。国内旅行ガイド、海外旅行コンダクター、通訳、翻訳業を経て、1972年より文筆業。 1983年長野県軽井沢町、1991年同東部町(現・東御市)に移住し、ヴィラデスト農園を開き、2004年からはワイナリーをオープンした。 エッセイストとしては『パリ 旅の雑学ノート』、『料理の四面体』、『田園の快楽』等の著書多数。画家としては1989年に初個展、1994年より各地で巡回展。> 玉村さんは、41歳の時に輸血後肝炎を発症する。退院後療養生活に入るが、1年経っても症状は一進一退を繰り返すばかりだった。 体力を使わずに時間をやり過ごす方法はないかと思案し、いろいろ試みてみるのだがいいものがない。そんな時、高校のころまで描いていた絵を再開しようと考える。高校までは、子どものころから、いわゆる絵画少年だったのである。 なぜ、この本を書こうと思ったのかを、「まえがき」で次のように書いている。 <中年になって絵を再会してから今年でちょうど二十年になるが、これまで、絵に関する文章は、画集の作品解説以外にはごくわずかの断片しか書いていない。このあたりで、絵ばかり描いていた子供の頃や、日本画家だった父親の話、厄年に病を得たのを機に中断していた絵を再開した時のようす、絵を描くことが趣味からしだいに仕事になっていった経緯など、私と絵のかかわりをまとめておくのも悪くないだろう。 私の絵に関する考えかたや、私なりの水彩画の描きかたも開陳しようと思う。いまさら素人(しろうと)画家の技法など聞いても意味がない、と思う人も多いだろうが、学校などで専門の美術教育を受けていない、誰の手ほどきも受けたことがない見よう見まねの独学自己流は、中高年になってから、絵でも描いてみようか、と軽い気持ちで絵筆をとる人には案外役立つかもしれない。> 絵を再開した玉村さんは、最初は油絵から始めたのだが、思うようなものが描けないでいた。試行錯誤していろいろ描いてみるのだが、病気療養中ということもあり暗いものばかりになる。最初は躊躇していた絵の教則本も買って、勉強もし直すのだが悪戦苦闘する。 絵を描くようになって体調もすこしよくなり、精神的にも安定してきた時に、近所の人からリンゴをもらった。それを眺めているうちに、ふと、水彩画で描いてみようと思い立つ。 白い紙に水彩で描くという、油絵にはないその透明感に魅せられる。その時のことを、次のように書いている。 <油絵にはない、偶然の効果。それと、わずかな時間で描きあがる、早さ。そしてなによりも、絵具の色の背後に紙の白が透けて見える、油絵にはない透明感。 それは、私が水彩という技法に開眼した瞬間でもあったが、同時に、こんな、眩(まぶ)しいほど明るい白い紙に、鮮やかな赤い色の絵具を躊躇なく置けるようになった自分を知り、よかった。どうやら最悪の事態からは抜けだしたようだ、これで長かった闘病生活も終わるかもしれない、という、それは私が肝炎の寛解に希望を抱くことができた最初の瞬間でもあった。> 玉村さんは、現在では文筆業よりも絵を描く仕事の方が多いくらいだという。絵描きとしてのプロとなったのである。 この本では、それまでの経緯や彼の水彩画の製作過程を写真も添えて解説している。また、絵描きという職業のプロとアマの違い、日本画家だった父親のことやその息子としての思い、子ども時代の思い出、絵を買うとはどういうことか、絵を描くことを彼は「ライフアート」と称しているのだが、それはどういうことかなどを書いている。 玉村豊男の絵が好きだという人にはその絵をより深く理解するために、またこれから絵を描いていきたいと思う人には、絵に対する考え方や描画法などが参考になると思う。 この本から印象に残ったところを、いくつか拾ってみる。 <個性は、個性を求める先にはあらわれない。 私は個性的な絵を描きたかったのだが、それは描こうと思って描けるものではなかったのだ。 (中略)個性とは、ある種の個人的な癖のようなものではないだろうか。首をかしげるときの角度や、手を挙げるときの仕草や、お茶を飲むときに茶碗をもつ手のようすなど、誰にでもある、癖のようなもの、隠そうと思っても隠し切れない、直そうと思っても直せない、どうしようもないその人固有の、なにか。 自分からなにか人と違ったものを表現しようとか、他人との差異を示そうとか、みずから求めても個性は決して得られるものではない……。> <生命あるものを描く絵だから、ライフアート。 日常の暮らしの中で見てもらいたい絵だから、ライフアート。 そのほか、生活の中のありふれたシーンを切り取ったような風景画を描く、自分自身のライフスタイルにかかわるかたちで絵に関する仕事をする、あるいは生きかた、暮らしかたそのものをアートとして表現する、など、いろいろな意味で、生命や、生活や、人生をひっくるめてあらわすライフという言葉を、芸術だけでなく技芸、技術、やりかた、などをあらわすアートという語にくっつけて、ライフアート、という名称を考えたのだった。英語にはアート・オブ・ライフ、リビング・アートなどのいいかたはあるが、ライフアートという言葉はない、といわれたが、自分の造語でかまわないとそのままにした。> <子供のような絵、というが、子供の絵はどれも素晴らしい。誰でも絵は子供のときがいちばんうまくて、大人になるにしたがって、それも絵を専門に勉強するようになるととくに、どんどん下手になっていくのではないか、とさえ思われる。 絵は、どこから描きはじめてもよい。また、どこで終わってもよい。 なにを描いても、描かなくても、自由である。 だから、子供でなくても、白い紙や、なにも描かれていないキャンバスに向かうとき、気分は開放感に満ちている。 そのせいだろうか、絵描きには長生きが多い。> <(前略)論理的な能力は衰えても、絵を描くことはできる。 つまり、物書きは歳をとるといつかは物書きをやめなければならないが、絵描きはいつまでも絵描きでいることができるのである。 絵描きの世界では、老大家が震える手で描いた子供のような絵が、 「子供のような絵だ」 といって賞賛される。ついに、幼児のような純真無垢の境地に到達した、と。 しかし、文章家はまずい。たとえ人気作家でも、 「子供のような文章だ」 といわれたらおしまい(後略)> <今日のお薦め本> 『絵を描く日常 OF MY LIFE ART』 玉村豊男 著、東京書籍 刊、1575円(税込)、07.10.20第1刷発行 旧作から最新作まで、約90点の作品がカラーページに掲載されています。 <後記>玉村豊男さんは、毎朝、庭で摘んできた草花や農園で収穫された野菜などを、朝の光の中で描くそうです。彼の絵は一見細密画のようですが、それだけではないみずみずしさを感じるのは、そのためかもしれません。 現在、彼の絵は「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」と、今年から箱根の元箱根に開設された「玉村豊男ライフアートミュージアム」で観られるそうです。 バカ親父も絵を描きたいのですが、下手だから躊躇しています。でも、絵は下手でもいいんでしょうね。まずは描くことが大事なような気がします。歳とって手が震えて描いても、かえってそれが味があるものになるのかもしれません。 少しずつでも、描いてみようかと思っています。 * この本にも紹介されていたのですが、玉村さんの日本画家の父親・玉村方久斗展が、12月16日まで鎌倉の神奈川県立近代美術館で開かれているのを、偶然ですが知りました。よかったら、ご覧ください。 *(08.02.08記) 08.02.17まで、京都・岡崎の京都国立近代美術館で「玉村方久斗展」が開かれています。 絵を描く日常
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ボタニカルアートは職場でも扱っているので馴染みがあります。(カルチャースクールに勤めていると趣味の話に相槌が打てるので便利)ライフアートミュージアムの作品がどれも素敵でした。 |
リサ 2007/11/09 00:59 |
☆ リサさん、そうか、“ボタニカルアート”っていう講座もあるんですね。趣味について、いろいろと話のタネができていいですね(^^♪。 |
遊哉 2007/11/09 19:37 |
実は私も密かにそのうち絵を描きたいと思ってはいるのです。長女のお古の水彩色鉛筆と72色のuni色鉛筆は大事にとってあります。グランマ・モーゼスのことを考えればまだ間に合う(笑)何に間に合うのか笑っちゃうけど描いて愉しむだけでもいいですものね。遊哉さんのライフアートのアップも間近かしら?楽しみです。 |
urara 2007/11/10 00:06 |
☆ uraraさん、グランマ・モーゼスのことを考えれば、孫みたいなものですから、十分間に合いますよ。是非、挑戦してみてください(^^♪。 |
遊哉 2007/11/10 00:29 |
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