『犬は神様』

画像 銅版画家でエッセイストの山本容子さんが書いた『犬は神様』という本の紹介である。

 山本さんは仕事の一つとして、芸術家の肖像画を描いている。もう500人くらいになる。描く芸術家の人となりを知るためには、彼らのプライベートな写真を見るのが一番いいという。
 その人の人間性を表わしていることが多く、その人がわかってきて、絵を描き始めるということだ。
 そんな自分の好きな芸術家の写真を見ているうちに、彼らの傍らにいる犬の存在が気になり始めたという。

<パリの街角のカフェに腰を下ろしているプレヴェール。散歩の途中だろうか、大きな黒い犬が足元に寄り添い、プレヴェールと同じ方向を向き、同じ存在感を出してガッシリ座っている。あるいはスタジオ内を自転車で移動するヘップバーン。前のカゴには小さな子犬が同じ瞳をして前を見つめている。そんなふうに写真を見ながら思いを巡らす。犬から芸術家たちの考え方や生き方を浮かび上がらせるのだ。彼らは、自分の犬から何を感じ取っていたのだろう。そして犬は、彼らのそばでどのような日々を送っていたのだろう、と。
 とんでもないイタズラに仰天することもあっただろう。誰にも話せない思いを、犬と歩き、見つめ合うことで、共有するときもあっただろう。そんな飼い主の思いを受け止め、あるいは時間を共有することで家族の一員としての自負を持つ。それがまた犬の喜びにもなるのだ。>

 そんな山本さんも、幼いころからいつもそばに犬がいたという。そんな歴代の犬たちを描くことで、自分の考えや生き方も浮かび上がってくるに違いない、と書いたのが本書である。
 本のタイトルは、

<銅版画家である私は、版画の性質上、ものごとを反転させて考えることがしばしばある。あるとき、犬(DOG)を反転させると神(GOD)になることに気がついた。そう、犬は神様なのだ。
 今までに出会った犬を思い出すと、神様がいつもそばにいたような幸福を私は覚える。犬は私たちにどんな愛や試練を与えてくれたのだろうか。>

というところからつけられた。
 山本さんは幼いころから、5頭の犬たちとほとんど間断なく暮らしてきたという。そんな犬について、こう語る。

<犬はいつも人間と一緒にいる生き物だ。人もそれを望み、犬もそれを好む。そして思う。一緒に過ごした人間は時を経て変化するけれど、犬はいつも変わらない。
 幼い頃を共に過ごした五郎やボスクは、私の生活まるごとを一緒に体験した家族そのものだった。青春時代を過ごしたヤロスは少し距離感が出て当時のほろ苦い思い出と共にその姿が甦る。結婚生活のまっただ中にやってきたマッシュには、必死に生きていた自分自身が重なって切なくなる。子どものいない私にとってルーカスは、誰よりも長く一緒に大事な時間を過ごしたパートナーだった。いや、パートナーというより、もっと私に寄り添う「守護天使」といったほうが良いかもしれない。>

 これら5頭の犬とのかかわりと自分自身の生活・仕事などについて、多くの絵と共に書いている。特に、最後に飼ったルーカスとの思い出が主となっている。
 ルーカスは、山本さんが35歳から51歳までの16年間を共に過ごしたのだが、鎌倉に住んでいたころに迷い犬として家に来た犬だった。
 このルーカスは、山本さんにとって、

<この世に生を受けたものが、どのようにその生涯を楽しみ、やがて老いてゆくのか、そしていかに自らの人生を閉じたら良いのかを、その十六年間の最後に、身をもって教えてくれた。>

という存在だった。
 どんなことを教えてくれたのかというと、

<ルーカスはよくわかっていた。衰えてゆく自分の体調や、それに見合った「やっていいこと」と「やってはいけないこと」。そして、「今の自分にできること」。
 自然の力に抗わず、ナチュラルに、力を尽くして生を終えること。
 私がルーカスに、最後に教えてもらったのは、そういうことだった。>

<今日のお薦め本>
『犬は神様 DOG is GOD』 山本容子 著、講談社 刊、1575円(税込)、06.11.17第一刷発行
 犬と共に描かれた芸術家の肖像画もたくさん掲載されています。共に生活した犬たちの絵もありますが、特にルーカスの絵の数々はすばらしいし、エッセイは心打つものがあります。
 若いころのルーカスもいいですが、老犬となってからのルーカスの行動や顔を描いた絵が特にいいです。

<後記>最初に飼った犬は、小学校5年から高校までいたスピッツで“コロ”という名前でした。今の“ひめ”は2匹目です。
 山本さんのように、小さい時からずーっと飼い続けたかったですが、なかなかそうもいかなかったですね。学生時代や社会に出てからは、アパート住まいが長かったから、犬を飼うなんて夢でした。
 人にとって犬って何なんでしょうか。猫とはまたちょっと違って、人とのつき合いも長いし、いろんな役にも立っているし、心の友という感じで特別の存在のような気がします。
 飼い犬は飼い主に似ると言いますが、たしかに、飼い主の性格を写し出す鏡のような存在でもあるかもしれません。
 家に帰ると、ひめが尻尾を振って迎えに出てきてくれると、疲れも吹っ飛ぶような気がします。それだけでも、ひめがいてくれると嬉しいですね。
 それにひきかえ、カミさんなんて尻尾を振ってくれないものねえ。まあ、最初から尻尾はありませんが……でも、ひょっとしたら、見えない尻尾があるかも(笑)。

“山本容子美術館 LUCAS MUSEUM”というサイトがあります。

 山本容子さん関連の記事があります。
・ 東京の街並み ― 『東京五十景』― 05.06.17
・ 『パリ散歩画帖』06.11.04

犬は神様

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この記事へのコメント

2007年09月02日 00:21
前記事のコメントをと思っていたらもうあたらしい記事がUPされてました。良い旅行の後に読まれたのか最中に読まれたのか、旅行記に出てくるひめちゃんとこの記事の写真のひめちゃん、山本さんのルーカスがダブってシミジミしちゃいました。
ビートは私の犬になるのか夫の犬になるのか家族の一員だから我が家を写すんだろうかとか考えちゃいました。皆引き受けてる気もします。
ひめちゃんいい佇まいになってきましたね。
2007年09月02日 01:08
ひめちゃん何を見つめてるの?
実家で飼っていた犬はスピッツのロン、2代目はスピッツとマルチーズのハーフのロン、私昔は犬派だったんです。
CATは反転しても意味ないのね~、ガッカリ(-_-;)。
2007年09月02日 08:34
私の姫様はただいま女王様に昇格し・・・
いずれ神様になるんでしょうね~~
私としてはいつまでも相棒で居て欲しいんだけどな~~(*^:^*)
遊哉
2007年09月02日 08:53
☆ uraraさん、この本は昨年出ていた本なんですが、旅行の直前に本屋で見つけて買って、読んでいました。でも、記事の文章が上手くまとまらなくて、紹介は後になりました(^^ゞ。
 ルーカスは16歳まで生きましたが、最後のほうでは脳溢血で右半身不随になって、右の目・耳・鼻が利かなくなりました。歩けるんですが、常にちょっと右に顔を傾けているようになったそうです。そんな絵もあって、かわいいのですが、切なくなりました。ひめも実はちょっと調子が悪くて、いろいろダブって考えちゃった本です。
 ビート君もひめも、それぞれの家族の一員だから、夫婦のどちらかというのでなくて、子どもも含めてそれぞれの家・家族を写しているんでしょうね。
 ひめがいい佇まいになってきた、なんて嬉しいですが、そのへんはバカ親父を写してないようです。残念(~_~)。
遊哉
2007年09月02日 09:17
☆ リサさん、写真のひめは、千葉で行ったベジタブルガーデンで、カミさんがショップに買い物に行ってしまったので、いつ帰ってくるかと姿を探しながら、待っているところです。カミさんかバカ親父のどちらかが見えなくなると、いつもこんな感じで待ってます。
 リサさんのところにもスピッツがいたんですね。昔はいっぱいいましたよね。2代目も同じロンという名前というのが、なんだか切ないですね。
 リサさんが犬派だったというのは、なんとなくわかるような気がします。今は、猫派ですか。うちのカミさんは犬・猫両方派です(^^ゞ。
 CATを反転するとTAC。ためしに辞書を調べてみたら、「“Tactical Air Command”(米)戦術空軍司令部」の略が“TAC”でした。夢がないですねえ(~_~)。
遊哉
2007年09月02日 09:25
☆ 小桜小梅さん、姫様は女王様になっちゃいましたか(^^♪。おしゃまでかわいくて、ちょっとワガママなプリンセス、というところでしょうか(^^ゞ。
 犬はそばにいるだけで人を幸せにしてくれるから、今もうすでに、姫様は神様じゃないでしょうか。それに、立派な相棒でもあると思いますよ(^^♪。
2007年09月02日 09:28
先ず、最初に飼った犬の遊哉さん、眼がチビリンにそっくり。びっくりしちゃった。良く似るもんだねぇ。
あれくらい写真を大きくしてくれると、文句ないけんろ。ところでお犬さまの話は読まずに居られないよねぇ~。遊哉さんの犬との出会いは凄いねぇ。滅多に経験出来ない稀な出会いだわ。すっげぇ~!!元々犬が好きだったおうちにもらわれたコロもひめもこれが何より幸せね。私と犬との出会いは迷い犬を預かったのがきっかけだったわ。それまでは自分が犬好きなのか猫好きなのかも分かんなかった。迷い犬を飼い主に返してから犬遍歴が始まった。私の前世は犬だろうってからかわれたりしながら・・・。私にとって犬は神様以上だよ。犬に支えられてるって言う寂しい?人生の時期もあったけど、どんな人であろうと私の三匹の犬に適う人は居なかったかも。。。昔々の恋人に「僕と犬とどっちが大切?」って聞かれたことあった。残念ながら「犬」だったのぉ。あはははは!!!
さよちん2
2007年09月02日 09:52
誰にでもあるのだろうかこんなにも犬恋しくて泣きたい夜が

なんて気持ちを何度も味わいながら、犬の居ない暮らしに慣れてきつつあるわ。ロト6が当たったらペット可の大きなマンション買いたいなぁ。。。
私の最後の犬になったのは「みなみ・つぐみ・テリー」で、死ぬときはテリーもつぐみも私の帰りを最後まで待ってたんだよ。でも、みなみは生涯自立心のある子だったから、普段はちっとも抱かれに来ないのに、死ぬ前夜、自分から抱かれに来て、ずっと私の膝に座ってたの。その内、膝から降りて行って、私のベッドに行き、寝息を立て始めたの。娘に「ねぇ、みなみは明日死ぬよ」って言ったら「何で???」って言うから「自分から私の膝に抱かれに来たもん」って言ったけど、本当に翌日、会社早退して帰るまでも待たず、座卓の下で冷たくなってた。いつもテリーとつぐみに私を譲って、遠巻きに私を見てる子だったの。
ああ~哀しくなった。また泣いちゃいそう・・・
遊哉
2007年09月02日 10:00
☆ さよちん、昔はバカ親父もつぶらな瞳だったんだよ(^^♪。昔の写真なら多少大きくしてもいいんだけどね。今は大きくできないというか、写真に撮られるのも嫌だ(~_~)。
 犬に関する本は、あんまり悲しいのはためらうけど、やっぱり読みたくなりますね。
 犬と人との出会いはいろいろあるだろうけど、コロともひめとも、考えてみれば面白いというか、めったにない出会いでした。何かの縁があったんだと思いますというか、思いたいですね。
 さよちんの犬好きは、いろいろ読ませてもらったから、よくわかってますよ。前世は犬だったに違いない(~_~)。
 恋人に「僕と犬とどっちが大切?」って聞かれて、返事が「犬」だったなんて、愉快だ~。でも、その気持ちはわかるような気がします。犬に支えられるっていうこともありますね。犬って、ちゃんと人の気持ちを読み取って慰めてくれるっていうところがあるものね。
 犬は不思議な動物です。人と犬とは切っても切り離せない関係があるし、これからも続いていくでしょうね(^^♪。
2007年09月02日 10:27
どこか、高級ペンションのお嬢様犬みたいですね。

犬にしろ猫にしろ、生涯に一度だけという犬猫に、もう会ってしまったような気がします。
貧乏な子供時代の犬、猫・・・・・
満足に今みたいに世話ができなかった動物たち・・・
心にしっかり住み着いて、離れない・・・・
いつかブログに書こう・・・・
遊哉
2007年09月02日 10:28
☆ さよちん2さん、やっぱり、犬が飼いたいという話が出てこない、と思ってたけど、続きがあったね(^^ゞ。
 “犬恋しくて泣きたい夜が”なんて切ないねえ。“犬の居ない暮らしに慣れてきつつあるわ”っていうのも、切ない。
 犬っていうのは人間よりずっと命が短いから、ちゃんと飼って、その最後まで看取ってやりたいと思います。ひめもいずれ、たぶんバカ親父より先に逝くだろうけど、看取ったら、また犬を飼いたくなると思います。死ぬまで犬を飼いたいけど、長生きしたとしたら、いずれ飼えない時がくるだろうとも思っています。
 さよちんはまだ若いんだから、いずれまた犬を飼える時が来ますよ。夢を持ってやっていってください。ロト6が当たるといいね。泣いちゃあ、ダメですよ!
遊哉
2007年09月02日 10:43
☆ のんびり猫さん、写真の雰囲気はたしかに、高級ペンションのお嬢様犬みたいにも見えますが、実際のひめは、バカ親父といっしょでしょぼくれています(^^ゞ。
 “生涯に一度だけという犬猫に、もう会ってしまったような気がします”ですか。犬でも猫でも、飼った犬猫にはいろんな忘れられない思い出があるものですよね。“心にしっかり住み着いて、離れない……”というその話を、いつか是非、ブログに書いてください。
2007年09月02日 12:07
ひめ! 将来 渋谷の駅前に 銅像作ってあげますからね!
遊哉
2007年09月02日 12:59
☆ seiziさん、せっかくだけど銅像はいらないよ~(~_~)。ひめにもしものことがあっても、バカ親父の心の中で活き続けるよ~(^^♪。
2007年09月02日 15:01
わ~い・わ~い
少年の頃の遊哉クンのお顔をはじめて見させてもらいましたよ・・
誰かさんも言ってたけど、お利口さンタイプの少年って感じ・・で(笑)
うちの主人も子供の時に犬飼っていたんですよ
ノンも元はと言えば主人が貰ってきた犬なんです・・
そして今、主人は会社で自営・・社長権、こづかい権ってやつです)ネコを飼ってるんです(アメリカンショートヘアの雑種)・・
そんな訳でうちの夫婦も揃って動物好き(笑)
動物っていいですね・・本当に心が和みますよね(^-^*)
遊哉
2007年09月02日 17:55
☆ 風子さん、厚顔の美少年(?)のころはまだよかったんだけどねえ、今はもう誰にもお見せできない(^^ゞ。
 ご主人も子どものころに犬を飼ってたんですか。ノン君もご主人がもらってきたんですね。動物好きに悪い人はあまりいないと思います。亭主関白はいるでしょうけど(~_~)。
 猫は飼ったことないんですが、カミさんが好きで飼いたがっていますが、ひめが猫と相性が悪いので今のところ飼えません。カミさんの実家には犬もいるし、猫も4匹ほどいます。猫も面白いですよね。
 ご主人は自営ですか。自営は大変だと思います。ニャンコがいると、癒されるでしょうね。
 夫婦そろって、動物好きでよかったですね(^^♪。

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  • 『山本容子のアルファベットソングス』

    Excerpt:  今までにも何冊か紹介してきたが、好きな版画家・山本容子さんの本の紹介である。  『山本容子のアルファベットソングス』というタイトルで、52枚の遊び心に満ちた銅版画である。 Weblog: 団塊バカ親父の散歩話 racked: 2013-05-26 23:26