『火を熾(おこ)す』(柴田元幸翻訳叢書)

画像 『野生の呼び声』や『白い牙』で知られる作家、ジャック・ロンドンの短篇集『火を熾(おこ)す』の紹介である。
 柴田元幸が選び、翻訳したものだから、面白くないわけがない(^^ゞ。

 ジャック・ロンドン(Jack London)について、まず簡単に紹介しておく。(本書奥付より)

<1876年、サンフランシスコの貧しい家に生まれ、十代で漁船の乗組員として世界を転々とする。やがてゴールドラッシュにわくカナダ北西部のクロンダイク地方へ金鉱探しの旅に出る。そのときの越冬の経験が、後に高い評価を得る『野生の呼び声』や極北の自然を舞台にした小説の背景となっていく。『白い牙』や『ジャック・ロンドン放浪記』など多作で知られ、1916年40歳で他界するまで200以上の短編を残した。>

 40年という短い生涯だったというのに驚かされるが、短篇を200以上も残したということにも驚かされる。
 「訳者あとがき」に、ロンドンの執筆活動について、特に短篇小説について、次のように書かれている。

 ロンドンの短い生涯のうち、作家生活は20年近かったという。「一日千語」のノルマを自分に課し、ジャーナリストとして多くの記事を寄稿し、上記のような長篇小説も二十数冊刊行したなかで、扱ったテーマの広範さは驚異的というほかない。
 そんな多産な執筆活動の中でも、200本に及ぶ短篇小説はその中心的なものといってもよく、印刷コストが安くなり、雑誌という媒体が大衆化していく流れのなかで、短篇作家ロンドンはその花形的存在だった。
<内容的にも、生きることを――相手が過酷な自然であれ、ボクシングの対戦相手であれ、内なる他者であれ――基本的にひとつの長い苦闘と捉えていたロンドンの人生観が、凝縮された、かつ一本一本異なった多彩な形で表現された媒体として、短篇小説がひときわ重要であるのは疑いのないところだろう。>

 本書の目次は、次のとおりである。

火を熾(おこ)す To Build a Fire
メキシコ人 The Mexican
水の子 The Water Baby
生の掟 The Law of Life
影と閃光 The Shadow and the Flash
戦争 War
一枚のステーキ A Piece of Steak
世界が若かったとき When the World Was Young
生への執着 Love of Life
訳者あとがき

 さて、短篇だからあらすじを書いてしまっては、元も子もない。ということで、ちょっとズルをする。
 鴻巣友季子(翻訳家)さんが朝日新聞の書評で本書を取り上げているので、その一部を引用してみる。

<(前略)『鉄の踵(くびす)』などのプロレタリア文学、戦争文学も残したが、ロンドンが書くとただの社会告発にならず、しばしば不思議な夢想性を帯びる。
 本書の表題作では、凍える氷原に男一人と犬一匹。労働中のようだが、どこへ何をしにいくのか分からない。ちょっとした油断から寒さが体に忍び込み……。ロンドンの作品はどれも際立った身体感覚がまた魅力である。革命のために賞金稼ぎをするボクサーを主人公にした「メキシコ人」、騎乗兵のごく限られた視界と動きで戦いを描く「戦争」、ハワイの伝承を下敷きにした海老(えび)取りの話「水の子」、奇妙な色の実験を題材にした「影と閃光(せんこう)」など、ロンドンの「夢」と「からだ」という特徴が堪能できる名作揃(ぞろ)いである。>


 本書は、ジャック・ロンドンの文章の淡々とした味わいとともに、内容も含めた緊張感、凄みが発揮されており、物語のなかにのめり込まされる。息を詰めて読み進み、最後の1行を読み終わって、やっとフーッっと息を吐く、そんな短篇が詰め込まれているのである。
 実にすばらしい、魅力のある短編集である。


<今日のお薦め本>
『火を熾(おこ)す』(柴田元幸翻訳叢書) ジャック・ロンドン 著、柴田元幸 訳、スイッチ・パブリッシング 刊、2205円(税込)、08.10.02第1刷発行
 「訳者あとがき」で柴田さんが、こんなことを書いています。
<本書では、一本一本の質を最優先するとともに、作風の多様性も伝わるよう、ロンドンの短篇小説群のなかから九本を選んで訳した。また、同じテーマを扱っていても、人間が敗北する場合と勝利する場合のなるべく両方が示せるように作品を選んだ。まあ勝利とは言っても、いずれは誰もが自然の力に屈する生にあっては、一時的なものにすぎないのだが……ロンドンの短篇の終わり方は、個人的に非常に面白いと思っていて、時にはほとんど冗談のように、それまでの展開をふっと裏切って、ご都合主義みたいなハッピーエンドが訪れたりする。そうした勝利の「とりあえず」感が、逆に、人生において我々が遂げるさまざまな勝利の「とりあえず」さを暗示しているようでもいて、厳かな悲劇的結末とはまた違うリアリティをたたえている気がする。
 ロンドンの文章は剛速球投手の投げる球のような勢いがあり、誠実で、素直で、ほかの作家ではなかなか得られないノー・ナンセンスな力強さに貫かれている。翻訳にあたっても、いつも以上に透明性をめざし、この作家の身上である勢いを削がないように努めたつもりである。>

<後記>久しぶりに面白くかつ重厚な短篇小説を堪能しました。お薦めの本です。
 ジャック・ロンドンは短篇小説の名手です!(^^♪。
 ちょっと値段の高い本ですから、図書館で借りたほうがいいかもしれません。

 昼間、カミさんは居間でテレビを見ていました。座椅子に座って、掘りごたつに左足を入れ、曲げられない右足は外に出したまま。
 SORAは、その脚の間に入って寝ていました。まったくねえ(^^ゞ。

画像



火を熾す (柴田元幸翻訳叢書) (SWITCH LIBRARY 柴田元幸翻訳叢書)
スイッチパブリッシング
ジャック・ロンドン/柴田元幸 訳

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この記事へのコメント

2008年11月03日 22:58
中学生の時、野性のの呼び声と白い牙を読んで以来、学校図書館でジャックロンドンの本を探したのですが、置いてなくて、そのまま年月が流れ・・・最近朝日新聞にこの本のことが書いてあったのですが、値段が・・・・そうですか?やっぱり面白かったですか?
絶対文庫にはなりそうにもないので、図書館かなー
田舎の図書館に入庫するか怪しいものですが・・・
遊哉
2008年11月03日 23:36
☆ のんびり猫さん、中学生の時にロンドンを読みましたか。今も、文庫本になっているのは「野生の呼び声」くらいのようです。
 バカ親父も朝日新聞の書評を見て、読んでみたくなりました。本屋で見てついつい買っちゃいましたが、面白かったです(^^♪。文庫にはならないかもしれませんね。
 図書館に買ってもらうように、頼めないものでしょうかねえ。あとは古本屋ということになるでしょうが、なかなか出てこないかもしれません。
 うーん、思い切って買っちゃいましょうか?!(^^ゞ。
ごろごろ
2008年11月04日 13:46
こんにちは~
ジャック・ロンドン…読んだことがありませんでした
!遊哉さんの紹介で読んでみたくなりました!
柴田元幸氏といえば、以前ポール・オースターのニューヨーク3部作の『Ghosts』の原書を読んだ時に、その時は抽象的な内容でよくわからなかったので、訳書を買って交互に読んでいました。その本『幽霊たち』(というようなタイトルだったと記憶)の訳者が彼でした。文学の目利きといわれる氏の訳した本ならきっと面白いでしょうね!チェックしました~!
遊哉
2008年11月04日 18:50
☆ ごろごろ さん、こんばんは(^^ゞ。
 「野生の呼び声」しか読んだことがなかったのですが、彼のこの短編集は面白いです。
 以前に柴田さんの本を紹介した記事で、ポール・オースターを訳していることは知っていましたが、読んだことはありません。なかなか面白そうですね。原書ではとてもじゃないけど読めないので、柴田さんの訳したものを読んでみたいです。
 柴田元幸という人には、熱烈なファンがいるようです。文学の目利きなんでしょうね。エッセイもとても面白いものを書きます。訳したものもいいですよ(^^♪。
 是非いつか、この本を読んでみてください。引き込まれます(~_~)。
2008年11月04日 21:05
白い牙は 昔々 読んだけどーー 面白そうだなーー 
遊哉
2008年11月04日 21:23
☆ seiziさん、「白い牙」を読みましたか。バカ親父はそれは読んでないけど……この短編集はいいですよ~(^^♪。
2008年11月04日 23:20
面白そうですね。でも高いねぇ^_^;
図書館に足を運ぶ時間はないし…。
「白い牙」って昔々、漫画で読んだような気が…。
遊哉
2008年11月04日 23:31
☆ Fチェスカさん、この本、面白いですよ~(^^♪。でも、ちょっと高いよね。でも、食べるものをちょっと控えれば、買えると思うんだけど~。少しは痩せられるし~(^^ゞ。
 図書館が近くにあって、すぐに行けるといいのにねえ(~_~)。
 漫画でもいいと思うけど、できたら想像力をかきたてられる文章で読んでください(^^ゞ。
2008年11月05日 10:19
やっと到着!私ってどうしても短編物って嫌いなんだよねえ~。小説は長編がいいなあ~。
だから短編は小池真理子のくらいしか読んでないや。
今読んでるのも長編やし。でもやっぱり1回読んでる気がしながら読んでるのぉ。。。おかしいなあ~。
SORAはママべったりだね。(^ー^* )フフ♪
そしてよぉ~寝る子や。寝てばっか。寝る子は育つけんね!私はこれ以上育ちたくないけどなあ~。
遊哉
2008年11月05日 10:58
☆ さよちん、短篇が嫌いなの、面白いのに~(^^ゞ。長編もいいけど、短篇の最後の終わり方で面白いのは面白いんだよ(~_~)。短篇は凝縮された面白さがあります。メリメとか日本では山川方夫なんていう人の短篇がいいですよ~(^^♪。
 この前ブック・オフで買ってもらった本が、前に読んだものだったという記事を読んだよ(~_~)。バカ親父もよくやるんだよね。ミステリーものに多いんだけどね(~_~;)。
 実は昨日買った文庫本が、10日前に買ったものと同じだった~。あ~あ、でした(^^ゞ。
 SORAはカミさんの方がくっつきやすいみたい。最近は公園で他の犬とよく遊ぶから、帰ってくるとよく食べて、よく寝てます。これ以上は大きくならないと思うけどね(~_~)。
 さよちんは、いくら寝ても、もう大きくならないよ。太るだけ(^^ゞ。

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