団塊バカ親父の散歩話

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zoom RSS 『紳士の黙約』

<<   作成日時 : 2012/11/06 23:23   >>

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 昨年の8月に紹介したドン・ウィンズロウの新シリーズ第1弾『夜明けのパトロール』の第2弾が邦訳されたので、紹介してみる。
 タイトルは『紳士の黙約 The Gentlemen's Hour』で、主人公は前作と同じ探偵ブーン・ダニエルズである。

 ブーンはサーフィンの名手だが、彼にとってのサーフィンは趣味でもなく仕事でもなく、人生そのものである。そして、朝早くから仕事前に仲間といっしょにサーフィンをしているのだが、その世界一大事な仲間が“Dawn Patrol”(夜明けのパトロール)なのである。
 今回のタイトルは『紳士の黙約』だが、原題は“The Gentlemen's Hour”となっている。
 まずは、この「紳士の時間」について本書の説明から紹介しておく。
 次のようなものだ。


<当座の仕事がない以上、事務所に出向いて、赤字がますますかさんでいるかを調べてみても、意味がない。
 だからブーンは、“紳士の時間”まで長居を決め込む。

 “紳士の時間”とは、サーファー界の古くからの慣習のようなものだ。
 一日の中で二番目の時間帯、すなわち“ドーン・パトロール”のあとの時間帯をさす。パワフルに技をこなす若者たちが早朝のセッションを終え、めいめいの“お勤め”に出かけると、浜辺には、もっと年上のつわものだけが残る。引退生活者、医師、弁護士、成功した企業家ら――もはや九時五分の仕事におさらばした人々だ。
 まあ、若い連中が“紳士の時間”に居残ってもかまわないのだが、暗黙のルールを四つ守る必要がある。
   一 年長者の波にはけっして割り込まない。
   二 若い肉体でしかこなせない大技は披露しない。
   三 何事に関しても、自分の意見は言わない。
   四 ぜったいに、どんなことがあっても、「その話は前に聞きました」などと言わない。

 “紳士の時間”に集う紳士は、話好きだからだ。海に入っていない時間の半分は、乗り古したステーションワゴンのまわりで立ち話に花を咲かせる。遠い記憶を語り合ううち、過ぎし日の波はとめどなく高くなり、厚くなり、意地悪くなり、あるいは甘くなり、長くなっていく。しかしそれはごく自然な、人の常だろうと思うブーンは、こまっしゃくれた新米サーファーのころでさえ――この時間に新米が交じるのは珍しかったが――間抜けな口をしっかりと閉じていれば、なんとなくそばにいるだけで、年配者から多少なりとも何かを学ぶことができると気づいていた。老いかけた肉体の内側には、若々しい真実が潜んでいる。
(後略)>


 「紳士の時間」とは、こんなものである(^^ゞ。
 どこの国でも、年寄りというのは同じようなものなのかもしれない。同時に、若者も年寄りとつき合うについては、いろいろ気を使っているようだ(~_~)。
 それはさておき、この紳士の時間に集う紳士が今回の話(ミステリー)に大きく関わってくるということである。

 あらすじの紹介は、いつものカバー裏からにしようかと思ったのだが、「訳者あとがき」にネタバレにならないように巧くまとめられているので、借りてしまうことにする(^^ゞ。


<舞台は、カリフォルニア最南端のサンディエゴ市にある海沿いの町、パシフィックビーチ。ここで生まれ育ち、“生涯サーファー、ときどき探偵”として気ままに暮らすブーン・ダニエルズが主人公です。
 のんびり屋のようでタフ、型破りなようでいて知性と正義感にあふれる、この私立探偵ブーンの前に、今回は二つの事件が同時に立ちはだかります。
 一つは、町の英雄であるケリー・クーヒオ、通称“K2”が、酔っぱらいの若者グループに殴殺された事件。主犯とされるティーンエイジャーに対して世間の怒りが沸騰するなか、ブーンは何かを見落としている気がして、再検証に乗り出します。「あんな犯人の肩を持つつもりか?」と周囲からは強い非難の雨あられ。しかし、自分が自分であることを死んでもやめようとしないブーンは、みずからの信念を貫き、真実を追い求めずにはいられません。
 そのかたわらブーンが取り組むもう一つは、裕福な名士の妻をめぐる浮気調査です。ありふれたつまらない依頼に思え、手早く片付けようと動きだしたものの、調べが進むにつれて事態は急転。暗く深い大きな穴がじわじわと開き始めて、ブーンを呑(の)み込んでいき……
 二つのストーリーは、どこまでも並行するようでもあり、どこかで交わっていくようでもあり、メビウスの輪にも似た微妙なねじれを保ちながら進んでいきます。そんなねじれの背景に、やがて南カリフォルニア文化の黄昏(たそがれ)がセピア色に浮かび上がり、と同時に、アイデンティティの確立や揺らぎという永劫(えいごう)のテーマが、いくつもの世代、さまざまなかたちで描かれていきます。>


 ということで、あらすじは終わり(^^ゞ。

 話はちょっと変わるが、作者のドン・ウィンズロウがインタビューで次のようなことを語っているそうである。

 「僕にとって、犯罪小説は海に似ている。表面でいつも何かが起こっていて、それもたしかに現実だけれど、水面下ではいつもまた別の何かが進行し、目には見えないそれこそが、目に見える表面上の物事を押し流しているんだ」

 このシリーズは、そんなカリフォルニアの表と裏を、サーファーたちの生活を語りながら対照的に描いているのである。
 第二作では、この二つの事件の裏に思いもかけないことが潜んでいる。それを解き明かしていくブーンの活躍を描いた面白いミステリーとなっているのである。

 さて、ドン・ウィンズロウの語り口は独特のものがあって(特に会話が)面白いのだが、少し引用してみようと思う。
 まずは、ブーンが現在つき合っている弁護士補ペトラ・ホールのブーン評から。ベトラはK2を殴殺した主犯の弁護をしているのだが、その支援をするようにブーンに依頼した人物でもある。


<ペトラはすわって、紅茶を味わう。
 珍しく、ぼうっとしている。ブーンを眺めながら考えをめぐらすだけで、なんだか楽しい。
 変わった人よね、とペトラは思う。見た目は単純、でも心の中はすごく複雑。穏やかに見える海面の下には、大いなる矛盾が渦巻いている。ターザンみたいなサーファーのくせに、夜はロシア文学を読む。ジャンクフードをがつがつ食べるのに、無駄な体脂肪がまったくなく、たき火で魚をじょうずに焼ける。無教養な俗物に見えて、その気にさせれば、芸術を知的に論じることもできる。冷(さ)めた皮肉屋を演じつつも、理想主義を隠そうともしない。喜怒哀楽に類するものから懸命に距離を置こうとするものの、性根はひどく繊細で、ひょっとするといままで知るどんな人よりも温厚で優しい男性かもしれない。
 そのうえ、憎らしいほど魅力的。でもって、じれったい。ここ三カ月ほど、デートめいたことを重ねているのに、ブーンときたら、唇を一瞬かすめる程度にキスしてくるのがせいぜいだ。
(後略)>


 ドーンパトロールの一員で水難救助員をしているデイブ・ザ・ラブゴッドを、ブーンが訪ねるシーンから。


<デイブ・ザ・ラブゴッドが、水難救助員の監視塔にすわっている。
 ブーンは監視塔のふもとでおどけて言う。「搭乗の許可、願います」
 「許可する」
 はしごを登り、デイブの隣りに腰かける。デイブはブーンが来たことを了解するしぐさすらしない。海を見つめたままだ。観光客であふれる浅瀬から、目を離さない。もちろんいま海面は穏やかだが、経験からいって、平常がいつ突然、異常に変わるかわからない。デイブはこの監視塔を“女性観光客(ツーリスト)を物色するためのやぐら”として使っているのではないか、と“ドーン・パトロール”中にたびたび冗談の種にされる――いや実際、その用途にも使っている――のだが、当直中にかぎっていえば、海に入っている者がひとりでもいるかぎり、デイブは全身全霊を傾けて任務にあたる。教え込んだのはブーンの父親で、仲間全員、こんな心得を胸に刻んで育った。
 海に背を向けるな。
 波がないと思っても、背を向けてはいけない。油断した瞬間、どこからともなく異様な巨浪がせり上がり、のしかかってくる。海の見かけと、内部の様相とは、つねに何かしら違う。その“何かしら”は、はるか遠い場所で生じて、こちらへ向かってきているのだが、海面に現われるぎりぎりまで気配を示さない。
 いままでにも経験がある。海が真っ平らな日に、忽然(こつぜん)と気まぐれな大波が出現し、遊泳者を何人か呑(の)み込んだ。もしデイブが驚愕(きょうがく)のあまり数秒間凍りついたりしていたら、その人々は命を落としていただろう。ふだんどおり、デイブは平常心を保った。驚くにはあたらない。海はいつだって、愛すべき存在であると同時に、信用ならないあばずれなのだ。わがままで浮気者で魅惑的、力強くて死を招く。
 だから、会話の最中、デイブはいちどもブーンに顔を向けない。ふたりそろって、まっすぐに海を見つめる。
 「ちょっと訊(き)きたいんだけど」と、ブーンは切りだす。
 「未熟者よ、知恵を授かりに来たのか?」
 「おれたちって、格好つけて偉ぶってるくせに、日焼け止めクリームを塗りたくった自分の鼻の先までしか見えていない自惚(うぬぼ)れ野郎なのかな?」
 デイブが鼻筋に指を触れ、日焼け止めクリームがまだ乾ききっていないのを確かめる。
 短い沈黙のあと、ひとこと。「まあ、そんなところだ」
 「だろうと思った」ブーンは立ち上がる。
 「それだけ?」
 「うん」
 「じゃあな」
 「どうも」
 「なあに」
 ブーンは浜辺を歩いていく。>


 短く切るつもりだったが長くなってしまった。
 これでオシマイ(^^ゞ。


<今日のお薦め本>
『紳士の黙約 The Gentlemen's Hour』 ドン・ウィンズロウ 著、中山 宥 訳、角川文庫、1000円、12.09.25. 初版発行

<後記>最後に引用した箇所の海(波)に関する記述で、3.11の津波が思い起こされてしまいました。
 海というのはすばらしく魅力のある自然ですが、同時に怖さももっているものです。
 いたずらに恐れることはないと思いますが、侮るとしっぺ返しを受けると思います。まあ、それが“自然”というものなんでしょうね。
 今回の第2作では、そんな自然の恐ろしさというか“動き”についての記述がたくさんあります。
 ちょっと第1作とは趣を異にしているかもしれません。
 でも、面白かったです(^^ゞ。

 今日は、昨夜からの雨が日中も降り続きました。
 カミさんは、東京の友達のところまでダベリに行ったので、バカ親父はのんびりと過ごしました(^^ゞ。
 で、一枚も写真を撮らなかったので、最初の写真は昨日の夕方の空です。一面の雲に覆われていました。
 雨雲なんでしょうね。
 明日は秋晴れになりそうです(~_~)。


紳士の黙約 (角川文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-09-25
ドン・ウィンズロウ

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
以前、キムタクが、朝3時に起きて九十九里でサーフィンをしてから、仕事に行くというのをやってましたが、うちの近所の九十九里でした。
どこかで、すれ違ったことがあるか・・・も・・・
その後、さんまを九十九里に連れて行ってサーフィンを教えてましたが・・・二度と教えないと怒ってました。

ロスのロングビーチで、夕暮れのビーチを眺めていたことがあります。
監視塔がシルエットになって感傷的な雰囲気でありました。

『夜明けのパトロール』・・・まだ読んでない((+_+))・・・積読・・・(^^ゞ
ねこのひげ
2012/11/07 05:39
紳士の黙約面白そうですね^^
表紙もなんだかそそられます。
非常に興味深い^^
TAKA
URL
2012/11/07 10:47
☆ ねこのひげ さん、働いているサーファーにとっては、海には朝早くに行くしかないんでしょうね。
 キムタクも、九十九里で朝早くからサーフィンをしてたんですね。キムタクがさんまにサーフィンを教えたんですか。大変だったでしょうね(^^ゞ。文句をいいつつしゃべり通しだったんじゃないでしょうか。嫌になるでしょうね(~_~)。
 アメリカの海岸は防波堤とか波除ブロックなどを置いたりしないと聞いたことがあります。長い海岸線で夕日を眺めたりしたら、いいでしょうね。監視塔のシルエット、見てみたいです(~_~)。
 『夜明けのパトロール』、手に入れてますか。この第2作も含めて、ゆっくりと読んでみてください(^^ゞ。
遊哉
2012/11/07 11:31
☆ TAKAさん、このシリーズはなかなか面白いです。
 興味があったら、是非読んでみてください(^^ゞ。
遊哉
2012/11/07 11:32

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