『キング・オブ・クール』

 好きな作家ドン・ウィンズロウの最新邦訳である『キング・オブ・クール』の紹介である。

 とりあえず、あらすじをカバー裏から。

<舞台は南カリフォルニア。大麻の種子を持ち込んだ軍人のチョンは平和主義者のベンを相棒に大がかりな大麻供給グループを築き上げ、またたくまに軌道に乗せた。
 しかし、商売敵の手によって仲間が病院送りに。すぐさま麻薬密売組織にお礼を見舞い、腐敗警官との駆け引きに臨んだが、前世代から続く因縁が2人の前にたちふさがる――。
 過去と現在をつなぐ覇権争い、2人は生死を賭け、一発逆転の大勝負に打って出るが――!?>

 プロローグは、次のように始まる。


<    

 あたしとしてよ。

                カリフォルニア州ラグーナ・ビーチ
                             二〇〇五年

     

 とOは思いながら、チョンとベンにはさまれてメインビーチのベンチに坐(すわ)り、ふたりのためのお相手選びをしている。
 「あれは?」と指差したのは、板張り遊歩道を向こうへ歩いていくBB(いかにも〈ベイシカリー〉『ベイウォッチ』に出てきそうな)タイプの美女。
 チョンは首を横に振る。
 ちょっと見下す感じ。チョンはすごくえり好みが激しい。アフガニスタンとかイラクにずいぶん長くいて、迷彩服やブルカで覆われていない女体なんてあまり見ていないくせに。
 でも、あのブルカって衣裳(いしょう)、じょうずに使うと、すごく熱くなれそうな感じ。
 じょうずに使うって、つまり、ハーレムみたいなことに。
 ああ、でもだめ。
 ブルカはO向きではない。このブロンドの髪を隠すのはもったいないし、ニカブという名のヴェールは明るい瞳(ひとみ)の色を殺してしまう。
 Oは太陽の申し子だ。
 カリフォルニア女子。
 チョンはというと、小柄ではないがやせっぽち。Oの目には、前より痩(や)せたように映る。昔から鋭利な体つきだったけれど、今はメスでそぎ落とした感じ。そして、ほとんど剃(そ)り上げたような短い髪も、Oには好もしい。
 「あれは?」と、今度は、巨乳でつんと上向きの鼻をした観光客風のブルネット娘を顎(あご)で指す。
 チョンは首を横に振る。
 ベンはスフィンクスみたいに黙りこくって、役割が逆転している。いつも口数が多いのは、ベンのほうなのだ。といっても、チョンと比べての話で、チョンはあまりしゃべらず、ただときたま、壊れた消火栓みたいに、言葉が噴き出して止まらないことがある。
 ベンは相対的に口数が多いけれど、気が多いというわけではない。
(後略)>


 この物語の主人公は、ここに出てくる親友同士のベン(ベン・レナード)とチョン(ジョン)である。
 O(オフィーリア)というのはチョンの幼なじみである。幼いOが年上の「ジョン」を「チョン」と言いまちがってから、ジョンは“チョン”になった。
 Oはチョンに金魚の糞のようについて回っていた。最初はうるさがっていたチョンだが、やがてOの兄というか庇護者のようになったのである。
 2005年の現在では、Oはチョンに恋している。
 
 この物語は、2005年の現在のベン、チョン、そしてOを中心として語られるが、1967年、1976年、1981年、1991年にもフラッシュバックする。
 それはサンフランシスコで興ったヒッピー文化にかげりが見え始めたころから、約40年を駆け抜ける物語ということで、実は麻薬の歴史とも重なっているのである。
 第一世代は大麻(マリファナ)で、ドクとジョン・マカリスターという擬似師弟(父子)の二人が南カリフォルニアの麻薬密売組織“連合”をつくり出す。
 第二世代はLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)で、スタンとダイアンというヒッピー崩れの夫婦が持ち込み、「パンとマリーゴールド書店」を拠点に携わり、“連合”がゆるやかなアウトロー・サーファーの共同体から利潤追求の犯罪組織へと進化する。
 第三世代にはコカインが登場し、社交界デビュー直前の美少女キムが密輸に絡んでくる。
 そして、“連合”は商売敵によりその存在を脅かされていくのである。

 同時に、その麻薬の歴史は、ベンやチョンやOのそれぞれ軋轢のある親たちの歴史でもあった。

 そんな歴史のなかで、ベンとチョンは大麻の水耕栽培で最先端品種を開発・製造し、事業の核にしているのだが……メキシコの麻薬密売組織とかかわる商売敵の魔の手が忍び寄ってくる。
 はたして、ベン、チョンそしてOの運命は……

 ドン・ウィンズロウの語り口は独特のものがあるのだが、この物語は今までの作品とも違って特色がある。
 306に及ぶ章というか、場面のカット割り? がされているのである。まるで映画の台本? のようである。

 プロローグに紹介したように、「1」のカットはたったの1行で終わっている(^^ゞ。
 4行で終わる、次のようなところもある。


 アフガンの戦地で大怪我を負い名誉除隊になったチョンが帰ってきて……

<    171

 チョンがバーガーを食べ終えて、にんまりする。
 「セックスよりよかった?」Oがきく。
 「そこまではいかない」
 でも、僅差(きんさ)だ。>


 他にも面白い語り口のところを2か所ほど紹介しておく。
 ベンが麻薬組織の男を追って、あるパーティーに潜入すると、Oの母親パクと会ってしまう……


<(前略)
 パクがベンの左手を見る。「ああ、そうね。妙齢のお嬢様がたとお近づきになるのに、これ以上の場所はないわ」
 言外のメッセージ:わたしの娘には手を出さないでね。
 「Oもいっしょですか?」そう尋ねながら、ベンの頭には、手錠と足枷(あしかせ)をして無理やり連れてこられたOの姿が浮かぶ。Oは、ここのパティオで母親といっしょにアイスティーを飲むぐらいなら、猫の小便を猫から直接飲むほうを選ぶだろう。
 パクは“O”という略称を聞き流す。「いいえ、今ごろ職探しでもしてるでしょう」
 Oが職探しをする可能性は、ビンラディンが西アクロンの <ホリデー・イン> のナイトクラブに前座で出演する確率とどっこいどっこいだ、とベンは胸の中で言う。
(後略)>


 スタンが過去を振り返り、自問自答するシーン。

<(前略)
 何があったか?
 ウォーターゲート、イランゲート、コントラゲートとスキャンダルが続き、周りじゅう腐敗だらけで、自分だけは腐敗しないと思っていても、時間が人を腐敗させ、重力や侵食のような確かさで、腐敗は人を弱らせ、疲れさせて、たぶん国家というものも、息子よ、そうやってくたびれ、衰えていくのだ。暗殺や戦争やスキャンダルや
 ロナルド・レーガンや、コカインを売ってテロリストたちに資金を提供し、安いガスを守るために戦争を仕掛けたブッシュ一世や、精力絶倫の実益主義者ビル・クリントンや、邪悪な老人たちに繰られるお坊ちゃんブッシュ二世などのせいで……そしてある朝、テレビをつけると、高層ビルが崩れ落ち、とうとうこの国に戦争が上陸してきた。
 何があったか?
 アフガニスタンとイラク 純然たる狂気 殺戮(さつりく) 爆撃 ミサイル 死者 すっかりベトナムに逆戻りで、戦争がすべての元凶だと言ってもいいのだけれど、突き詰めれば
 自分のことは自分の責任
 何があったか?
 われわれは疲れ、年老いて夢をあきらめ、自分自身を見下すことを、若き日の理想主義をせせら笑うことを自分に教え、自分を安売りし、その結果、われわれはもう
 自分がなりたかった人間ではない。>
  

 物語は過去に遡りながら、ベンやチョンやOの親たちやその世代の生き方や生活を描いていく。同時に3人の生い立ちも語られ、麻薬戦争に飲み込まれていく登場人物たちの過去と現在を描いていくのである。
 3人の現在のヒーローの物語と、その親世代の物語が融合したピカレスク・サーガ(悪漢一族の年代記)と言えると思う。


<今日のお薦め本>
『キング・オブ・クール THE KINGS OF COOL』 ドン・ウィンズロウ 著、東江一紀 訳、角川文庫、1000円、13.08.25. 初版発行

<後記>ドン・ウィンズロウは、独特の語り口でとても面白いミステリーというかサスペンスものを書く作家です。
 ブログに紹介したのは『夜明けのパトロール』『紳士の黙約』の2冊だけですが、この他にもたくさん書いているので、是非一度、本書でもいいですが何か1冊読んでみてください(^^ゞ。

 昨日(10日)は曇りのち晴れという予報でしたが、すっきりと晴れずに曇りがちでした。
 夕方の散歩に出ようとすると、霧雨が降っていました。
 合羽を着るのは面倒だし、それほど降らないと思って、防水の帽子だけを被って行きました。

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 いつもの原っぱでSORAとボール遊びをしようとしても、SORAは乗ってきません。あちこちウロウロ(^^ゞ。
 そのうちに雨が粒になって落ちてくるようになったので、帰ることにしました。

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 最近、夕方に飛び回るコウモリが増えてきました。この写真にも写っているんですが……はっきりしませんね(^^ゞ。

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 今日(11日)もはっきりしない天気で、雨がパラパラと降ったり止んだりになりそうです。


キング・オブ・クール (角川文庫)
角川書店
2013-08-24
ドン・ウィンズロウ

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この記事へのコメント

2013年09月11日 13:03
お久し振りです。最近体の調子が悪くてブログを休んでいました。
昨日から始めたら早速見てもらってありがとうございます。
今日の記事も写真も楽しく拝見しました。
今回色々有り名前も変えましたが又ぼちぼち遣りますので宜しく御願いします。
遊哉
2013年09月11日 15:41
☆ ヤマチャン、体調には充分気をつけてください。
 ブログはマイペースでボチボチやっていきましょう(^^ゞ。何事も楽しみながらやるのがいいと思います。
 雲が多いとあまり面白い写真が撮れませんが、楽しんでもらえれば嬉しいです(^^ゞ。
 こちらこそ、よろしくお願いします。
2013年09月12日 02:22
これも面白そうですね。
ねこのひげは西條奈加さんの『千年鬼』を読み終えたところです。
ここのところ時代小説を読んでおります。

こちらは、きょうも先ほどまで雨でした。きのうも午前中まで雨でした。
雨が降るたびに静しくなっていくようですが、きょうは30℃を越えるとか・・・?
カラッととした秋晴れになるといいですね。
遊哉
2013年09月12日 08:59
☆ ねこのひげ さん、西條奈加さんの『千年鬼』はファンタジー・ノベルのようで、面白そうですね。時代小説はハマると止まらなくなりそうです(^^ゞ。
 この『キング・オブ・クール』は麻薬戦争というアメリカの闇の世界を描いていますが、家族の年代記でもあり、同じ時代を生きてきているからとても面白かったです。作者の語り口も相変わらず面白いです(^^ゞ。
 うちの方も夜中は雨でした。まだ涼しいですが、今日は真夏日になって蒸し暑くなるそうです。青空が見えるのはいいんですけどね(^^ゞ。
2013年09月12日 15:40
遊哉さん、じつはわが家の周りもコウモリが増えたようで、いつぞやはベランダの問に死体が転がっており、先日は家の中に入ってきて、家内は失神せんほどに驚き、怯え、ぼくも僕の部屋に入ったところで、慌てて窓を開けて避難する騒ぎをしたばかりです。朝、恐る恐る部屋を検分しましたら、もういませんでした。やれやれです。イソップ物語からこっち、ずっとコウモリさんは好きになれません。
遊哉
2013年09月12日 16:41
☆ ごろーさん、お宅の方でもコウモリが増えようですか(^^ゞ。
 うちの方は古い家もあるから以前からいましたが、最近飛んでいる数が増えたように見えます。
 バカ親父がはじめてコウモリを見たのは名古屋です。小学生の時に伯母の家に行った時に、なにかヒラヒラとんでいるので、聞いたらコウモリでした(^^ゞ。名古屋は意外と多いかもしれません(~_~)。
 コウモリはいろんな虫を食べてくれるから、益獣だと思いますが、ベランダで死んでいたり家の中に入ってきたら嫌ですね。奥さんもビックリしたと思いますが、あまり怖がることはないと思います(^^ゞ。 

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