『特捜部Q ― 吊された少女』
〔雨に濡れたサザンカに小さな虫がいた〕
昨年7月に『特捜部Q』シリーズの第5弾「知りすぎたマルコ」を紹介したが、待望の第6弾「吊された少女」が出たので、紹介してみる。
特捜部Qは、カール・マーク警部補が率いるコペンハーゲン警察の未解決事件を専門に扱う部署である。
プロローグは、次のように始まる。
< プロローグ
一九九七年十一月二十日
周りはすべて灰色の中に沈んでいた。ちらちらうごめく影とやわらかな闇が彼女をくるみ、温(ぬく)もりを与えていた。
夢の中で彼女は自分の身体(からだ)から抜けだした。鳥のように、いや、蝶(ちょう)のようにあたりをひらひら舞っている。喜びと驚きを広く伝えるためにこの世に生まれた、浮遊する芸術作品のごとき存在。魔法の杖(つえ)で永遠の愛をかなえてくれる空高く舞う色とりどりの生き物。
彼女は微笑(ほほえ)んだ。なんて清らかで素敵なイメージなの。
星のかすかなきらめきが暗闇に届き、その光がおぼろげに揺れている。風のざわめきや木の葉のささやきがなんて心地いいのかしら。
自分で身体を動かすことはできなかった。でも、そんなことは望んでいない。少しでも動こうものなら夢から覚め、たちまちあの痛みが戻ってくるから。
そのとき、過去の無数の光景が頭の中に浮かんできた。兄と一緒に砂丘を跳ね回っている。そんなにはしゃぐな、と注意する両親の姿。
どうしてパパとママはなんでもかんでも禁止したのだろう。ふたりとも、あの砂丘で本物の自由を感じなかったということ?
美しい円錐形(えんすいけい)の光が下を通り過ぎていく。夜光虫が海面を光らせているように、あちこちがキラキラとまぶしい。彼女は微笑んだ。輝いている海を実際に見たことはなかったけれど、きっとこんな感じなのだろう。海面自体が発光していたり、黄金の液体が深い谷底を流れていたりするように見えるはず。
ところで、ここはどこ?
(後略)>
17年前のことのようだが、夢の中にいるらしい(?)この女性、いったいどうしたのだろうか?
次の場面は、現在の特捜部Qである。
< 1
二〇一四年四月二十九日、火曜日
「カール、起きてください。電話です。ずうーーーっと鳴ってます」
カールは面倒くさそうに目を上げた。アサドのやつ、いつから黄色い迷彩服なんか着るようになったんだ? 今朝はまだ白いつなぎを着て、その縮(ちぢ)れ毛も黒かったはずだろ。まさか、壁の色塗りを本気で始めたわけじゃないよな。それであんな色になったとか?
「おまえは今、複雑なことを必死に考えている俺を邪魔したんだからな」カールはぶつくさ言いながら両脚をデスクから下ろした。
「そうでしたか、すみません!」アサドの目尻が下がり、口角がにゅっと上がって、顎(あご)ひげが引っ張られた。なんだ、その笑いをこらえたような目は? おまえ、本気で謝ってないだろ?
「カール、昨日遅かったことはわかっています」アサドは続けた。「でも、電話に出ないと、ローセに八つ裂きにされますよ。次にかかってきたら、絶対に出てください」
地下室の窓から差しこむ光がまぶしい。やれやれ、ちょっとばかりタバコを吸っても罰(ばち)は当たらないだろう。カールはタバコに手を伸ばした。その瞬間、電話がまた鳴りだした。
アサドは「ほらほら」と言いたげに電話機を指さし、部屋を出ていく。あいつ、だんだん俺に指図するようになってきたな。
「もしもし、マークです」受話器を口に近づけもせず、カールはぶっきらぼうに言った。
(後略)>
相変わらずのちょっとおかしな特捜部Qの面々である(^^ゞ。
かかってきた電話は、ボーンホルム島の定年退職直前の警官クレスチャン・ハーバーザートからだった。
17年前に起きた少女轢き逃げ事件の捜査に協力してほしいという依頼だった。
その事件は、車に撥ね飛ばされた少女アルバーテ・ゴルミストが、木に逆さ吊りになったまま絶命した悲惨なものだった。有力な手がかりもなく放置されていたのだが、ハーバーザートだけが取り憑かれたように捜査を継続していたのである。
でも、やる気のないカールはその依頼の内容を聞きもしないで、忙しいと言って断ってしまう。
ところがとんでもないことが起きる。
ハーバーザートが自分の退官式で、スピーチのあとピストルで頭をぶち抜き自殺してしまったのである。
なぜ、そんなことをしたのか?
ローセから電話の依頼を引き受けなかったからだと責められ、カールは仕方なくアサドやローセとともに、風光明媚で“おとぎの島”と言われているボーンホルム島に渡って事件の真相究明に乗り出した。
捜査が開始されても、カールは「なんで俺が……」と相変わらず腰が重いが、やる気満々のアサドやローセに引きずられたり、謎の解明を進めていくうちに“刑事としての醍醐味”を取り戻してしだいにのめり込んでいく。
17年も前の事件で捜査は遅々として進まないのだが、ハーバーザートが集めていた捜査資料や聞き込みを丹念にしていくうちに、容疑者として新興宗教の教祖が浮かび上がってきた。
物語は、その新興宗教の教祖やその片腕として活動する女性の過去の話とカールの捜査とが並行して語られていく。
そのふたつがしだいに現在に収束していくのだが……。
はたして犯人は誰なのだろうか?
カールは、今までおよそ縁のなかった精神世界やヒーリング療法、さらには宗教学や天文学などと格闘しながら真相にせまっていく。
それが、みずからの命を危険にさらすことになるとも知らずに……。
<今日のお薦め本>
『特捜部Q ― 吊された少女』 ユッシ・エーズラ・オールスン 著、吉田奈保子 訳、ハヤカワ・ミステリ、2268円、15.11.15. 発行
<後記>やあ、今回も相変わらず面白い(^^ゞ。
犯人は思いもかけない人物でした。作者にしてやられた! というところですが、それがなんだか嬉しく思えるほど面白いのです(^^)/。
物語は男と女、夫婦、親子の微妙な感情や人間の弱さ、哀しさなどを描いていて読みごたえがあります。
特捜部Qの面々は相変わらずですが、悶着を起こしながらもチームとして成長し、仲間意識もより強まってきています。
とはいえ、アサドの謎がまたひとつ出てきたり、人格入れ替えごっこでローセの双子の妹ユアサが現れたりといろんなことがあります(^^ゞ。
前回登場した優男で仕事もいい加減なゴードンは、いけ好かない上司・殺人捜査課の課長ラース・ビャアンのスパイ? のようですが、しだいにチームに溶け込んでいきます。
カールの同居人の元刑事ハーディ・ヘニングスンを全身麻痺にした釘打ち事件も、少しだけですが進展を見せます。
はたして物語全体の流れが今後どうなっていくのかも興味がもたれるところです。楽しみです(^^♪。
今朝(18日)はカミさんが着付けの仕事に行ったので、散歩に行きました。
雨は止んでいましたが、今にも降ってきそうでした。
公園のモミジがだいぶ赤くなっていました。
SORAのトイレを済ませて、早めに帰ってきました。
午前中は晴れ間もありましたが、午後からは時々激しい雨が降るようになりました。
夕方の散歩はちょっと小降りになったころあいに出かけました。
早めに帰ってきました(^^ゞ。
今日のSORAもよく寝ていました。
ふと見ると……
こちらをじーっと見ていることもありました(^^)/。
明日(19日)は晴れ間もあるようですが曇りがちの一日で肌寒そうです。











この記事へのコメント
魅力には勝てない(*_*;
雨が降ったり止んだり・・・冬空になってきました。
嫌ですね。
今週は曇り空が多いようですね。しだいに寒くなってきそうです。嫌ですね(^^;。
すばらしい、是非読みたいです。
私はとうに廃本になった本を10年以上前に(^^;)
最近は子供達と紙芝居を楽しんでいます。
シリーズの前のものを読んでなかったら、文庫本になっているのから読んでみてください。できれば第1弾から読むといいと思います。
子どもたちに紙芝居をやってらっしゃるようですね。子どもたちと一緒だとエネルギーをもらえるんじゃないでしょうか。無理しないように頑張ってください!(^^♪
何時も気持ち玉ありがとうございます。
初めまして宜しくお願いします。
本は良く読む方ですがこの本は未だ読んだ
事がないので大変参考になります。
今度読んでみます。
今後とも宜しくお願いいたします。
いつもユニークで楽しい記事を、興味深く読ませていただいてます。
あまりコメントはしないほうなので、気持ち玉だけですが、お許しください(^^ゞ。
本がお好きですか。このシリーズはとても面白いので是非読んでみてください。
こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします(^^♪。