『失踪』




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                〔星も見えた昨日の朝空〕


 久しぶりに大好きな作家ドン・ウィンズロウのハードボイルド・ミステリー『失踪』を紹介する。
 誘拐され行方不明になった少女を捜し出そうとする元刑事の話である。

 プロローグは次のように始まる。


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 マンハッタンの朝が、ごみ収集車のけたたましさを連れてやってきた。金属のぶつかる音や、蒸気の噴き出す音。夜のあいだの罪の数々を運び去る。
 いや、運び去ろうとする。
 日の出はまだだが、もう暑い。ここワンルーム・ホテルの六階にまで、路地のごみの臭いが漂ってくる。まあ、自業自得だ――多少ましな空気を入れようと、窓を無理やり開けたままにしてあった。
 長い夏が終わらない。暑さの残滓(ざんし)が、古い恨みのようにコンクリートにへばりついている。
 八月も末に近づき、秋の気配がかすかに混じっているのがせめてもの救いか。
 白いシャツが、着たとたん、肌に張りついた。きれいなシャツとはいいがたいが、手持ちの中では、これがいちばんましだろう。薄茶色のスラックスを穿(は)き、ソックスと靴を履いて、防弾チョッキのベルトを締める。三八口径のスミス&ウェッソンを腰に差し、青いブレザーをはおって覆い隠した。
 ヘイリー・ハンセンを家へ帰してやる日が来た。
 私の名前はフランク・デッカー。
 消えた人間を捜し出す。>


 主人公はフランク・デッカー(デック)である。物語は一人称で語られていく。
 このプロローグは、ラスト近くでも同じ描写が出てくる。少女を誘拐し監禁していた犯人との最後の対決に挑もうとする、デックの朝の様子である。

 一年前のことである。元海兵隊員だったデックは米国中西部のネブラスカ州警察リンカーン署の刑事だった。
 8月末のある日、ヘイリー・ハンセンという5歳の少女が、母親シェリルがほんの1分家に入っていた間に忽然と姿を消した。
 見かけない白いバンが目撃されていただけだった。
 シェリルは白人で娘との二人暮らしだったが、実父は黒人でシェリルの妊娠を知った直後に姿を消し、音沙汰がなかった。
 デックは、シェリルがヘイリーを殺した可能性や、実父が連れ去った可能性、近隣の性犯罪者が拉致した可能性などを探っていくが、それらは次々と否定されていった。精一杯の捜索を続けるのだが、時間だけが経っていった。

 子どもが誘拐された場合、最初の一時間でおよそ半数が殺され、3時間以内で三分の二が殺され、24時間経つとほぼ100%殺されるという統計があり、リンカーン署の刑事たちもFBIの捜査官も、ヘイリーが死んでいるとみなすようになっていった。
 しかし、デックだけは遺体が見つかるまでは彼女が生きているものとして捜査を続けようとする。

 やがて、ブリタニー・モ-ガンという少女の第二の失踪事件が発生し、彼女は遺体で発見される。
 容疑者として、かつてデックが逮捕したことのあり、児童虐待の前歴のあるハロルド・ゲインズという男が浮上した。
 だが、ブリタニーを誘拐し殺害したのはゲインズだと判明したが、ヘイリーの失踪には関与していないことがわかる。
 警察は最善を尽くしたが捜査は暗礁に乗り上げ、ヘイリーの行方はわからず、すでに殺されてしまっているとみなされた。
 
 “ヘイリーを見つけるまでは諦めずに、あらゆる手を尽くす”と母親のシェリルに誓っていたデックは納得がいかず、バッジを返上し警察を辞めてしまう。単独で捜索を続けることにしたのである。

<組織というものは素晴らしいし、おおかたにおいて私はその力を信じている。人生の大半を〝組織の人間〟として過ごしてきた。初めは海兵隊に、その後は警察に所属した。組織は、個人では不可能なことを成し遂げられる。
 ただし、逆もまた真なり。
 一個人には、必要となればすぐ行動できる自由がある。
 自分自身に対してしか責任を負わなくていい。>

 これが彼の考え方だった。
 妻ローラとの関係もギクシャクしていたデックだったが、それを繕うよりもヘイリーの生存を信じ捜索を続けることにしたのである。

 1年の間各地を捜索し続けた彼は、ある糸口を見つけニューヨークに行くことになった。
 やがて彼は、悪のクモの巣にからめとられ、悪戦苦闘していくことになる。
 はたしてデックは生きているヘイリーを見つけることができるのだろうか? そして犯人を捕らえることができるのだろうか?

 独特の語り口であるウィンズロウ節を堪能できる快作だと思う(^^ゞ。


<今日のお薦め本>
『失踪 Missing: New York』 ドン・ウィンズロウ 著、中山 宥 訳、角川文庫、1426円、15.12.25. 初版発行

失踪 (角川文庫)
KADOKAWA/角川書店
2015-12-25
ドン・ウィンズロウ

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<後記>これまでドン・ウィンズロウの作品としては、『夜明けのパトロール』『紳士の黙約』を紹介してきました。
 今回の物語の主人公デックは、上記2作品の主人公で西海岸のサーファー探偵、ブーン・ダニエルズに似ているところがあるような気がします。
 両者とも元警官で、失踪事件がからんできます。それに自分の信念にしたがって捜査を進めていきます。
 ただし、ブーンは容疑者の逮捕に失敗し辞職に追い込まれますが、デックは自ら辞めて捜査を継続していきます。
 まるで、ブーンの無念をデックが晴らそうとしているようにも思えます(^^)/。

 ところどころに、誘拐・監禁されているヘイリーの独白が挟み込まれ、サスペンスを盛り上げています。
 ラストはどんでん返しの連続となり、ハラハラドキドキで読み進められます(^^ゞ。  

 昨日(17日)は午前中は晴れましたが、午後からは曇りで、夜になって雨になりました。
 カミさんが朝早く着付けの仕事に行ったので、ゆっくり7時半ころに散歩に行こうと思っていましたが、SORAがクンクンと鳴いてうるさいので6時少し前に出ました。
 上の写真のように朝日も出ておらず暗くて、星が見えました。

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 公園の原っぱをウロウロしているうちに、しだいに明るくなっていきました。

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 カミさんは昼ごろ帰ってきました。
 夕方の散歩にはカミさんも一緒でした。

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 空は雲に覆われていました。

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 原っぱでワンコの飼い主さんたちとおしゃべりしていたら、すっかり暗くなってしまいました。
 帰ることにしました。

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 今日(18日)は午前中は雨または小雪で、そのあとは曇りのようです。寒そうです。

この記事へのコメント

2016年01月18日 12:10
今頃になってしまいましたが
旧年中はいつもご訪問ありがとうございました。今年もよろしくお願い致します。
今年もSORAちゃんはじめワンコたちの可愛い様子や身近なお話、面白そうな本の紹介を楽しみにしています。

アメリカ在住の頃、誘拐され何年も見つからない子供がとても多いことに驚きました。今回ご紹介いただいた小説でそんなことを思い出しました。誘拐されたヘイリーの無事を祈りながら読みたくなりました。
遊哉
2016年01月18日 17:39
☆ うずら さん、こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします♪。コギさんの楽しい様子をたくさん書いていってくださいね(^^ゞ。
 アメリカは子どもの誘拐がとても多いようですね。この本では、そんな現状のこともよくわかりました。子どもを誘拐された親の気持ちを考えると、堪らないですね。
 物語としては、ミステリーとしてもサスペンスとしてもとても面白いので、よかったら読んでみてください(^^)/。

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  • 『報復』

    Excerpt:  前々回に紹介した『失踪』と同じ作者ドン・ウィンズロウの『報復』を紹介する。  この2作は、同時発行されたものである。同じ作者の本が2冊同じ日に発行されるというのは、とても珍しいことだと思う。 Weblog: 団塊バカ親父の散歩話 racked: 2016-01-19 23:34