『ひみつのしつもん』



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       〔矢印? テニスコートの照明灯である(^^ゞ〕

 翻訳家の岸本佐知子さんのエッセイ集『ひみつのしつもん』を紹介する。
 これは岸本さんが雑誌『ちくま』に連載しているエッセイの単行本化されたものだが、連載は今年で18年目となり、その4冊目となる本である。
 妄想エッセイとも言っていいもので、面白くもおかしい話が満載である(^^ゞ。

 今回は次のような52タイトルのエッセイが収められている。

 運動/ふるさと/アレキサンドリア/大地の歌/カブキ/哀しみのブレーメン/体操/会員/不治の病/名は体を/羊羹/夜 ベスト3/地獄/たき火/七月の私/エクストリーム物件/洗濯日和/パンクチュアル/爆心地/渋滞/尻の記/分岐点/夏/履歴/星の流れに/成長の瞬間/ハリウッド/その者/列聖/シュレディンガーのポスト/ディストピア/正月連想/ネジ/マッチポイント/ぬの力/カバディ性/敵/人生の法則一および二/ひみつのしつもん/新しいツボ/海賊の夢/分岐/私は覚えていない/裏/お婆さんのパン/落ち葉掃き/茶色/友/河童/父 セリフ三選/花火大会/フィナーレ

 いくつか引用・紹介しようと思ったのだが、長くなりそうなので、ひとつだけ紹介することにする。
 「ネジ」である。


< ネジ

 このあいだ、自分の部屋で何か硬くて小さいものを踏んづけた。
 ネジだった。さしわたし二センチほどの、白っぽい銀色をした、小さなネジ。
 手の上に載せてしげしけ見た。何のネジだろう。小さくてサビが浮いて、けっこう年季が入ったもののように見える。
 私は部屋の中を見まわした。大した機械類があるわけではない。電話。ワープロ。電子辞書。暖房器具。スチール製のキャビネット。どれも壊れたりネジが取れてゆるんだような様子はない。色や素材もマッチしない。
 べつの部屋から持ってきた何かから落ちたのだろうか。掃除機とか。だが掃除機はもう長いことかけていない。
 この部屋には自分以外誰も入らないから、誰かが落としたとも考えにくい。そもそも毎日この部屋にいて、今まで気がつかなかったということは、つい最近落ちたもののはずだ。
 いったいどこから。
 自分か。
 自分から落ちたネジなのか。
 にわかには信じられないが、消去法でいけばそれ以外に考えられない。
 もう一度、手のひらにネジを載せてじっと見る。
 だんだん自分の一部だったような気がしてくる。
 知らなかった。自分は機械だったのか。
 しかし本人も知らないうちに機械だったなんてことあるだろうか。
 でも『ブレードランナー』のレイチェルだって、自分がレプリカントだったことを知らなかったじゃないか。
 あり得る。じゅうぶんあり得る。
 そう考えてみると、いろいろなことに合点がいく。
 さいきん肘とか膝とかが妙にキコキコいうこと。
 視界の端に、バグのような白い玉がときどき現れること。
 静かな場所にいると、低いハム音が頭の中で鳴ること。
 ぜんぶ「機械の経年劣化」で説明がつくんじゃないか。
 何より脳の処理能力ががくんと落ちた。それこそ「ネジがゆるんだ」というやつだ。
 なんてこった。私はしゃがみこんだ。自分がレプリカントだったと知らされたレイチェルの気持ちが、今なら猛烈にわかる。
 私は何とか物事の明るい面を見ようとした。そうだ。悪いことばかりじゃない。機械なら、部品の取り替えもきくはずだ。なんだったら全とっかえとかもできるのではないか。そうすれば今までの不具合はすべて解消、若返りもできて一発逆転勝利だ。どうすればいいのか。宇宙なのに煙を出して走る変な列車に乗って、新しい機械の体をもらいに行けばいいんだろうか。
 でもお高いんでしょう? ご安心ください、保証期間内でしたら無料で交換いたします。しかし製造から五十年以上過ぎている。部品はもうとっくに生産中止だろう。私そのものが廃番かもしれない。あああ。
 そこまで考えて私は我に返る。
 はは。いやいやいや。自分が機械だったとか、さすがにそれはないわ。でも一瞬本当に機械の体になったみたいな気持ちになれたし、レイチェルの気持ちにもなれた。ネジ一本でちょっとした脳内の旅ができたというわけだ。
 私は立ち上がり、そのネジを引出しのどこかにしまう。
 数週間後、また同じようなネジを部屋の中で踏んづける。>


 こんなエッセイともショートショートともつかない、頭がクラクラするような52の話が詰まった面白本である(^^ゞ。


<今日のお薦め本>
『ひみつのしつもん』 岸本佐知子 著、筑摩書房、1760円、19.10.10. 初版第一刷発行
 著者について、改めて奥付から紹介しておきます。
<上智大学文学部英文学科卒。洋酒メーカー宣伝部勤務を経て翻訳家に。主な訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、ショーン・タン『セミ』、ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』など多数。
 編訳書に『変愛小説集』『居心地の悪い部屋』『コドモノセカイ』『楽しい夜』など。
 著書に『気になる部分』『ねにもつタイプ』『なんらかの事情』などがある。『ねにもつタイプ』で第23回講談社エッセイ賞を受賞。>

ひみつのしつもん (単行本)
ひみつのしつもん (単行本)

<後記>このシリーズは大好きで、最初にこのブログで紹介したのは第2弾の『ねにもつタイプ』でした。
 それにハマって、最初の『気になる部分』を読み、第3弾の『なんらかの事情』を読んだわけですが、それから7年経って待ちに待ったこの本がやっと出ました(^^ゞ。(今まで紹介した本は、上の著者紹介の青字の本です)
 これらのエッセイは、ふだんの何気ないことに興味を抱き、そこから次々とそしてしだいに深く妄想の世界に入っていくのです(^^ゞ。
 物の見方や考え方が独特で、時にとてもシュールな世界を展開していきます。
 岸本さんの文章はわかりやすく、言葉も洗練されたもので、とても読みやすいと思います。
 たまには、こんな妄想の世界に浸るのもいいかもしれません(^^ゞ。

 今日(17日)はやはり雲の多い一日で肌寒かったです。
 昼間は引きこもって、テレビを観たり、居眠りしながら本を読んでいました(^^ゞ。
 夕方の散歩に出たのは4時半ちょっと過ぎでした。

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 SORAは「止まれ」で止まったわけではありません(^^ゞ。
 公園を斜めに上っていきました。

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 サツキの狂い咲き(^^)/。

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 こちらはキンモクセイです。あちこちで咲き始めました。

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 空はのっぺりとした雲に覆われていました。
 原っぱに出てウロウロしていきました。

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 公園を回ることにしました。

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 原っぱに戻ってウロウロしていきます。

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 SORAがクネクネスリスリしました(^^ゞ。

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 ちょっと歩いて、

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 またクネクネスリスリしまくりました(^^ゞ。
 ベンチに行きました。

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 SORAはすぐにマッタリしていました。

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 SORAは気になるワンコが見えると、頭をもたげていました(^^ゞ。

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 しばらくのんびりしていましたが、SORAが立ち上がったので帰ることにしました(^^ゞ。

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 明日(18日)の横浜の南の端っこの天気は、雲が多く、雨が降ったり止んだりのようで、時にザッと強まることもありそうです。
 北寄りの風が吹き、昨日よりも肌寒そうです。

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この記事へのコメント

2019年10月18日 20:23
岸本佐知子さんって「ねにもつタイプ」の著者だったんですか。この本面白そうだったので購入しました。
ネジの部分を読んで面白い書き方をすると思っていましたが、著者の名前を聞いても名前は覚えていないので分かりませんでした。
ネジの途中までなら、「ネジが自分の部品=自分は機械」と結び付けて話を展開するのは無理があるなと感じながら読み進めていくと、最後の方はそういった反感を打ち消すかのような話の持って生き方の内容で、うまいと感じました。
遊哉
2019年10月18日 22:04
☆ わけい さん、『ねにもつタイプ』を読まれたことがあるんですね。あれも面白かったですね(^^ゞ。
 岸本佐知子さんは翻訳家として有名ですが、こういうエッセイストとしても大した書き手だと思ってます。
 自分は機械で、落ちていたのはその部品、というのは無理がありますが、妄想に遊ぶ話なんですね。
 でも最後にもう一度、実は自分はひょっとするとやっぱりレプリカントなのかもしれないと、思ってしまうというオチがあって面白いです(^^ゞ。
 ほかの話も楽しんでください。