『終の航路』



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       〔夕日じゃないよ、朝日だよ!(^^ゞ〕

 久しぶりにワクワクするような海洋冒険小説『終(つい)の航路』を読んだので紹介してみる。
 米国の女性作家カサンドラ・モンターグのデビュー作で、近未来のSF小説でもある。

 プロローグは、次のように始まる。


<   プロローグ

 親がこの世に送り出してくれたと子は思っている。けれどそうじゃない。子は親より前から、ずっと前から、どこか遠いところに存在している。そうしてこの世にやってきて、わたしたち親をつくる。まずわたしたちを壊して、それから親にするのだ。
 わたしがそう悟ったのは、すべてが変わってしまったあの日だった。あのとき、大きなお腹(なか)を抱えて洗濯物をたたむわたしは、のみ込んでしまった人を無事に吐き出せる日を待つクジラのような気分でいた。そう、わたしの血液から酸素を取り込み、わたしの骨をきしませて寝返りを打つこの生き物は、確かに人なのだった。
 当時、わが家周辺の水深はおよそ一・五メートル。道路も芝生も、フェンスも郵便受けも水の中だった。ひと月前に大草原のかなたから押し寄せた水がネブラスカをひとのみにし、おかげで太古は内海だったというこの州は、かつての姿を取り戻したというわけだ。地球はもはや、陸地が島状に点在するだけの広大な海と化していた。窓から身を乗り出すと、水に映ったわたしの姿がいびつに伸びて、そのあとばらばらに千切れるのが見えた。
 シャツをたたんでいるときだった。突然の叫び声にわたしは目を見開いた。鋭い刃物で切りつけられたような衝撃だった。ロウは五歳だったが状況を理解していたのだと思う。
「いや! いや! ママといっしょじゃなきゃ!」
(後記)>


 時は2130年。地球温暖化と思われる原因で海面が上昇し、陸地の大部分が海に沈んでいた。残った陸地は高峰だったところで、島状に点在するだけだった。
 人はもとより、文明、文化、動植物などさまざまなものが消え去っていた。
 この物語の主人公マイラは、7歳の娘パールと漁をして、陸の交易所で魚と引き換えに生活必需品を手に入れながら細々と暮らしている。亡くなった祖父が手づくりした15フィート(4.5メートル)の小さな帆船バード号が住まいだった。
 レイダー(武装集団)が跋扈するこの新世界では、日々を生き抜くのがやっとだった。
 物語はこのマイラの語りで綴られていく。

 実は彼女にはもうひとりロウという名の娘がいた。
 ところが、ネブラスカの自宅が水没する直前、夫ジャイコブが身重だったマイラを置いて5歳だったロウを連れ去り、逃げてしまったのである。
 マイラは島々を転々としながらロウを探してきたのだが、あれから7年が過ぎ去り諦め始めていた。

 ある日、ロウの消息を耳にした。
 その昔グリーンランドと呼ばれていた最果ての地のヴァレーというコロニーで、レイダーの一派に囚われの身となっているらしい。
 そこでは、レイダーが集団の人口を増やすため、女たちに子どもを産ませる。女児が生まれると軟禁生活を強いられ、初潮を迎えると同時に繁殖船に送り込まれるというのである。
 ロウは12歳になる。今すぐにでも助け出さなければ……
 マイラはパールとともに、ロウの救出に向かうことを決意した。

 しかし、はびこるレイダーや北洋の荒れた海象を考えると、航海術の未熟なマイラが繰る小さなバード号では不可能である。
 途方に暮れているとき、遭難し漂流している男を発見した。
 他人を信じられなくなっていた彼女は関わりを避けようとしたが、パールに懇願され救助した。
 航海士だというその男ダニエルは悪人ではなさそうだが、何か秘密を抱えているようだった。
 ロウの救出のため、ダニエルに助けを求めると、最初は断っていた彼だったがなぜか承諾した。
 ところが、バード号が嵐に巻き込まれ沈没してしまった。
 漂流していた3人は、大型船セドナ号に救助された。

 年齢も経歴もさまざまな乗組員を率いるセドナ号の若き船長アブランは、元南米だった島のどこかで民主的コミュニティの建設を目指していた。
 その考えに同調していた乗組員は、最年長のトーマス、元軍人のウェイン、若く明るいジェッサ、料理係の女性マラヤンと彼女の17歳の息子ビーヒアだった。
 この船や乗組員なら大西洋横断も可能だと考えたマイラは、パールとダニエルとともに乗組員に加わることにした。
 彼女はアブランに惹かれたこともあるが、針路を北へ変えさせようと彼と男女の仲になることも厭わなかった。

 南の進路を取っていたセドナ号だったが、南米のコロニーはレイダーに乗っ取られたりして荒れていることがわかってきた
 マイラはアブランや乗組員たちに、ヴァレーというすばらしい地があると偽り、セドナ号の進路を北へと変えさせることに成功した。
 しかしやがて、乗組員の過去や自然の猛威がセドナ号に災厄をもたらし始めた。
 マイラは仲間、レイダーという敵、そしてなによりも自分自身と対峙しながら、ロウを探すために北上していくのだった。

 はたして無事に、マイラや乗組員たちはヴァレーに辿り着けるのだろうか?
 そして、ロウを見つけ助け出すことができるのだろうか?
 彼らの行く手には、過酷な運命が待っていたのだった。
 

 さて、あらすじはこのくらいにしておくが、この物語は、著者の詩心と女性の繊細な感覚で紡がれているような気がする。
 そんな個所をいくつか引用・紹介してみる。


<キャビンのテーブルをみんなと囲みながら、ドアのやや上へ目をやったわたしは噴き出しかけた。そこにかかる木のプレートに『性格がその人の運命を決める』と書かれていたのだ。
「何がおかしいんだ?」と、ウェイン。
「あれ」わたしはプレートを指差した。「本当だと思う?」
「運命を決めるまではいかなくても、運命の受け止め方は性格によって変わってくるだろう」アブランが言う。
「運命を決めるのは神様でしょう」マラヤンがおどけた口調で言った。
 トーマスとウェインがにやにや笑っている。何か内輪だけで通じるジョークがあるのだろう。
「神様はいったい何を考えてこんなことをなさったのか、知りたいものだね」トーマスがかぶりを振った。
「こんなことって、洪水のこと?」わたしが訊(き)いた。
「われわれ人間をつくったことだよ」トーマスはそう答えた。>

<噴水のような飛沫を上げてシャチの群れがジャンプした。もう一度。さらにもう一度。生きるために彼らは、ああして優しい弧を空中に描き続ける。>

<耳鳴りがしそうなほどの深い静寂に包まれて、わたしは考えていた。出産イコール命を与えること、ではないと。ただ種を蒔(ま)いただけでは命は育たない。光や土壌に恵まれてこそ花は咲く。マラヤンはわたしたちにとっての光、そして豊かな土だ。セドナ号の乗組員はみんな、どれだけ彼女の世話になっているかわからない。
 しばらくすると、マラヤンが寂しそうに微笑(ほほえ)んでかぶりを振った。
「このごろね、思うのよ。悲しみって、下を見ながら階段をのぼるようなものだなって」マラヤンは言った。「もといた場所を忘れることはできないのだけど、もうそこへは降りられない、のぼらないとならない。そこからどんどん離れていく。本当はのびりたくない。でも後戻りは許されない。胸の痛みが消えないまま、さらに空気の薄いところへ向かわないとならない。するとね、しだいに第三の肺ができてくる。自分はもうおしまいだと思っていたのに、気がつくとなぜか以前よりもひとまわり大きくなっているというわけ」>

<マラヤンはわたしを見つめたまましばらく無言だった。唇を噛み、瞳が見えなくなるほど目を細めていたが、やがて彼女は言った。「そのときどきで、いちばん難しいことをするの。無理だと思うぐらい難しいことを。それをひたすら繰り返すのよ」
 わたしはとてもマラヤンの真似(まね)はできないと思った。彼女みたいに強くはなれないと。ダウンリガーが重みに耐えかねて軋(きし)み、海へ向かってお辞儀をするような格好になった。網を引き上げないと落ちてしまうかもしれないが、どちらも動かなかった。わたしは涙をこぼすまいと懸命に瞬きをした。マラヤンの手を握りたいのを我慢した。こんなとき、わたしたちの道を示してくれる地図はない。先に行った人たちが、あとに続く者たちのために残してくれた道しるべ、それをたどって進むしかないのだ。
(中略)
 マラヤンが吐息をついた。「あのね、マイラ。あなたは魚を獲りたい。ヴァレーへ行きたい、そう願っている。だけど、何よりあなたが求めているのは希望なんじゃないかしら」
 顔を上げたわたしを、マラヤンは真正面から見据えた。その真剣な黒い瞳に絶望の翳(かげ)りを見てわたしは驚いた。どんな難局に直面しても、変わらずどっしりと落ち着いていたマラヤン。だが、彼女の揺るぎない頼もしさは重い覚悟と一体だったのだ。わたしはようやく気がついた。希望は常に絶望を孕(はら)んでいるのだと。絶望を恐れることはない。つらい場面のひとつひとつをそっと自分の中にしまっておけばいい。そうすれば、その隣に希望が寄り添ってくれるだろう。そして悲しみや苦しみは、消えはしなくても大きく育つこともない。>


 マラヤンその人や彼女の言葉にかかわる箇所が多くなったが、このおばちゃんがとても魅力的なのである(^^ゞ。
 過去に数々の悲しみを経験してきたが、それを内に秘めながら逞しく明るく生きていて、セドナ号の乗組員たちを包みこみ、心の支えとなっているのである。
 そんな彼女の行動や言葉を、マイラは同じ女性として理解し学んでいくのだが、女性の作家ならではの語りでそれらを描写していく。
 SF海洋冒険小説だが、男の作家には書くことができない興味深くも面白い物語となっているのだ(^^ゞ。


<今日のお薦め本>
『終(つい)の航路 AFTER THE FLOOD』 カサンドラ・モンターグ 著、新井ひろみ 訳、ハーパーBOOKS、1230円、19.10.20. 第1刷
 著者について、カバー裏から紹介しておきます。
<米国ネブラスカ州の緑豊かな環境で本に囲まれて育った。大学で文学を専攻した後、地元の新聞に寄稿しながら詩や掌編の創作に励んだ。初めての長編となる今作がエージェントの目に留まり、刊行前から17カ国語での翻訳が決定した。>

終の航路 (ハーパーBOOKS)
終の航路 (ハーパーBOOKS)

<後記>SF小説は苦手だ、という方もいると思いますが、この物語は宇宙人なんて出てこないし、ひょっとすると近未来に地球上で起こるかもしれないような話なので、面白く読めると思います(^^ゞ。
 ふたりきりで生き延びてきたマイラとパールの母子ですが、人とかかわる中でさらに絆を深めながら、どちらも人間的に成長していく話でもあります。
 夫と妻、親と子、男と女、友と友……そんな関係の軋轢や愛情を細やかに綴っていきます。
 舞台設定が面白いし、登場人物がよく描かれているし、ユニークで現実離れした話のようでいて、臨場感と説得力に満ちた物語です。
 海洋冒険小説としてもハラハラドキドキと読み進められる、バカ親父が大好きなジャンルの小説です。
 お薦めです(^^ゞ。


 今朝(11月1日)はカミさんが着付けの仕事に出かけたので、6時20分ころに散歩に出ました。
 冒頭の写真は、その時の朝日です(^^ゞ。
 尾根に上っていきました。晴れているものの、霧が少し出ていました。

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 これは何を撮ったかわかるでしょうか。ジョロウグモです。
 空中に浮かんでいるように見えました(^^)/。

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 東の東京湾の方は、まだ霧がだいぶあるようです。
 尾根に上りました。

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 雪を被った富士山がかすかに見えました(^^ゞ。わかるでしょうか?
 帰り道で、

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 すばやく移動するタイワンリスを見つけました。SORAがロック・オンして追っていましたが、すぐに見えなくなってしまいました(^^ゞ。

 日中はテレビを観たり本を読んだり、早起きだったので眠くて居眠りをしていました(^^ゞ。
 夕方の散歩は4時15分くらいに出ました。快晴でした。
 公園を斜めに上っていきます。

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 落日直前の夕陽が眩しかったです。
 原っぱに出てウロウロしていきました。

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 テニスコート脇を回っていきました。

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 夕日は沈んでいきました。

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 原っぱに戻ってベンチに行きました。

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 快晴で気持ちはいいのですが、雲がなくてなんだか詰まりません(^^ゞ。

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 SORAはすぐにマッタリし始めました(^^ゞ。

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 しばらくいましたが、暗くなってきたので帰ることにしました。

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 南西の空に月がくっきりと見えました。

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 薄い夕焼けになっていました(^^ゞ。

 明日(2日)の横浜の南の端っこの天気は、爽やかな秋晴れになりますが、夕方には曇ってくるようです。
 日中は20℃くらいですが、朝は13℃くらいで肌寒そうです。

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