『11月に去りし者』



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              〔雰囲気のある玄関灯〕

 米国の作家ルー・バーニーによるハードボイルドのノワール小説『11月に去りし者』を紹介する。
 ノワール小説ではあるが、切ない恋愛小説ともなっている。じんわりと沁みとおってくる味のある作品である(^^ゞ。

 プロローグは、次のように始まる。


<     1

 見よ! 邪悪な光輝に包まれたビッグ・イージーの街を!
 フランク・ギドリーは、トゥールーズ・ストリートの角で足を止め、加熱炉色のネオンの光を浴びた。人生三十七年の大部分をニューオーリンズですごしているが、フレンチ・クォーターのいかがわしいきらめきと活気は、いまだに麻薬さながら血に流れこんでくる。田舎者に地元民、路上強盗にペテン師、火食い男、マジシャン。二階のバルコニーの鉄細工の手すりに、ゴーゴー・ガールがひとり寄りかかっていた。スパンコールつきのネグリジェからぽろりとこぼれた片方の胸が、店内のジャズトリオのリズムに合わせてメトロノームのように揺れている。ベース、ドラム、ピアノが大音量で演奏する『夜も昼も』。だがそこはさすがにニューオーリンズ、街でいちばん汚らしいぼったくりの店のバンドでも、スイングできるのだ。そう、まさにスイング。
 男がひとり狂ったように叫びながら通りを走ってきた。すぐうしろから、女が肉切り包丁を振りまわして追ってくる。こちらも叫んでいた。
 ギドリーは静かに道を空けた。見まわりの警官が通りの角であくびをした。〈500クラブ〉の外にいたジャグラーも、ボールひとつ落とさなかった。バーボン・ストリートはいつもどおりの水曜の夜だ。>


 ニューオーリンズのフレンチ・クォーターの雰囲気が目に見えるように伝わってくる。
 主人公はニューオーリンズで人生を謳歌しているギャングの若手幹部フランク・ギドリーである。
 時は1963年。
 この年にはとんでもないことが起きている。年寄りにはわかるかも(^^ゞ。
 11月22日、テキサス州ダラスでジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたのである。

 ギドリーは、この暗殺事件の直後から、周囲の様子がおかしいことに気がつき、嫌な予感を覚えた。
 実は、暗殺の数日前にボスのカルロス・マルチェロの側近セラフィーヌの依頼で、ダラスに行っていたのだ。
 狙撃手の発砲はダラスのディーレイ・プラザにあるビルの6階から行われたのだが……

<(前略)ニュースキャスターの説明によると、ダラスのディーレイ・プラザは、ヒューストン、エルム、コマースの三つの通りに囲まれている。それがどこか、ギドリーにはわかりすぎるほどわかった。一週間前にそこにいたのだ。コマース・ストリートから二区画先の立体駐車場に、スカイブルーの一九五九年式キャデラック・エルドラドを置いてきた。
 ふだんセラフィーヌがその種の仕事をギドリーに頼むことはない。いわば彼のいまの地位にはふさわしくない仕事だ。だが、ギドリーはそのときダラスにいた。カルロスの懐に引き入れたい警視正を酒や食事でもてなし、苛立(いらだ)ちを慰めてやっていたのだ……断る理由はなかった。いいとも。みんなはひとりのために、ひとりはみんなのために。
 ねえ、ところでモン・シェール、ダラスにいるあいだに、ちょっとしてもらいたいことがあるの……。
 ああくそ、ちくしょう。逃走用の車の手配は、カルロスが有名な暗殺事件で何度もやってきた基本的な段取りだ。ガンマンは仕事を終えたあと、近くに隠してある足のつかない車にまっすぐ向かい、それで逃げる。>

 ケネディ暗殺の容疑者としてリー・ハーヴェイ・オズワルドが捕らえられたが、それはでっち上げで、真の狙撃犯は別にいたのだ。その黒幕がカルロス・マルチェロなのだ。
 ギドリーが置いてきたエルドラドは、狙撃犯の逃亡に使われたに違いない。それは、ギドリーとケネディ暗殺を結びつけと同時に、カルロスとケネディ暗殺を結びつける物証だ。
 それに気がついたギドリーだが、セラフィーヌが話があるというので会うことになった。
 彼女は、その後のエルドラドはヒューストンに向かっているという話のあとで、

<「ヒューストンに着いてからは?」
「信用できる人が海の底へ沈めるの」
 ギドリーはカウンターのスコッチのボトルに手を伸ばした。気分がよくなっていた――ほんの少し。(中略)
「誰がヒューストンで車を処分する?」ギドリーは言った。「運転している仲間か?」
「いいえ。彼にはほかの用事がある」
「だったら誰だ?」ギドリーは組織で高い地位に――セラフィーヌより少しだけ下――にいるので、カルロスの部下ならたいてい知っていた。なかには信用できる人間もいる。「誰が捨てるにしろ、まちがいなく信用できるやつにしたほうがいいぞ」
「当りまえじゃない。アンクル・カルロスが完全に信用している人よ。一度だってわたしたちの期待を裏切ったことがない」
 誰だ? ギドリーはまた訊きかけて口を閉じ、セラフィーヌをじっと見つめた。「おれ?」彼は言った。「だめだ。そんな厄介な車には近づかない」
「だめ?」
「そんなくそ車に近づくもんか、セラフィーヌ」今度は笑顔を忘れなかった。「いまだけじゃない。百年先までお断りだ」
 セラフィーヌはまた肩をすくめた。「でもね、モン・シェール、この件であなたほど信用できる人がほかにいる? 誰かいるなら教えて」>

 ギドリーはカルロスとセラフィーヌの罠に嵌ったことに気がついてしまった。
 カルロスは、ケネディ暗殺に関わった人間をすべて排除しようとしているのだ。
 身の危険を感じたギドリーは、一応セラフィーヌの依頼を引き受け車を海に沈めるが、その直後一路西へ逃走することにした。
 だが、カルロスが放った殺し屋ポール・バローネが執拗に彼を追ってくる。

 同じころ、オクラホマの田舎町で、アル中で自堕落な夫に耐えられなくなった主婦シャーロット・ロイが、8歳と7歳の年子の愛娘とラッキーというてんかん病の犬ラッキーを連れて家出した。
 シャーロットたちは新しい生活を始めようと、伯母のマルゲリートの住むカリフォルニアを目指した。

 やがて、ギドリーとシャーロットたちの道行がニューメキシコ州の国道66号線で交わることになる。
 しかしそこに、ギドリーを追う殺し屋バローネが迫ってきたのだった。

 はたして、ギドリーは殺し屋の魔の手から逃れることができるのだろうか?
 お互いに惹かれ合っていくギドリーとシャーロットに未来はあるのだろうか?
 すべてが終ったあと……なんとも切ないエピローグが待っていたのでした。


<今日のお薦め本>
『11月に去りし者 NOVEMBER ROAD』 ルー・バーニー 著、加賀山卓郎 訳、ハーパーBOOKS、1202円、19.09.20. 発行 第1刷
 作者について、カバー裏から紹介しておきます。
<『ガットショット・ストレート』(イースト・プレス)、“Whiplash River”、エドガー賞、アンソニー賞、マカヴィティ賞、バリー賞など多くの賞に輝いた“The Long and Faraway Gone”の3作の長編小説をこれまでに上梓。短編小説はニューヨーカー誌やプッシュカート賞などに取りあげられている。米国オクラホマ・シティ在住。>

11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)
11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

<後記>ギャングとして生きていく男や女の非情さや哀しさ、切なさを描いていて、ノワール小説ですが惹き込まれる魅力があります。
 ギドリーとシャーロットの恋も、気持ちの高ぶりを抑えた大人の恋で味わいがあります。それに、娘たちふたりのかわいらしさもいいです(^^ゞ。
 殺し屋のバローネは、これぞ“殺し屋”という非情さがありますが、なんだか惹かれる男でその行動に目が離せなくなります。

 ケネディ暗殺というのは、高校1年だったバカ親父の世代にはショックなニュースでした。日米の最初の衛星放送の日で最初に入ってきたニュースでした。
 ここに出てくるカルロス・マルチェロというギャングのボスは実在の人物で、ケネディ暗殺の黒幕だったという話もあったようです。
 この物語はハードボイルドに淡々と描かれていくノワール小説で、お薦めです(^^)/。

 今日は一時陽射しが届くこともありましたが、雲の多い一日で、夜になって雨が降ってきました。
 日中はテレビで映画を観たり、本を読んでいました。
 夕方の散歩は4時半ころに、SORAの大腸炎のその後を診てもらいに獣医のところへ、カミさんもいっしょに行きました。

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 途中で東京湾の方を見ると、どんよりとした雲に覆われ見通しは悪かったです。

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 西空も同じようにどんよりとした雲に覆われていました。
 獣医のところでは、SORAはこの3、4日はちゃんとした“うんこ”が出るようになっているので、もう大丈夫だろうということでした(^^ゞ。
 帰りにいつもの公園に行こうと思いましたが、雨がポツリポツリと降ってきたし暗くなったので、寄らずに帰ってきました。

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 ということで、写真はこれでオシマイです(^^)/。

 明日(8日)の横浜の南の端っこの天気は、雲の多い空で、昼ころから陽射しが届きそうですが、朝と夕方には雨が降るかもしれません。

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