『生きるコント2』

 2年ほど前に、大宮エリーさんの『生きるコント』というエッセイ集を紹介した。
 映画監督・脚本家・作家・演出家・CMプランナーと幅広く活躍している大宮エリーさんが、『週刊文春』に連載していたエッセイを集めたものである。

 その第2弾が文庫本になっていた。とても面白く楽しく読める本である。
 紹介してみる。
 内容を目次から紹介すると、次のようである。

 社外秘の女/ネギ女/家庭教師/家庭教師2/勝負着物/涙坂/笑う巨匠/ラジオの時間/おかんの願望/プレゼン術/罪滅ぼし/タクシーと私/省略の功罪/ロケットエリー/就活ラプソディー/最近のK/ジキルとハイドな夜/会社辞めたい/ホモダチ/空の攻防戦/Tバックの日/勧誘注意報/おかんの弱点/行者のことば/外人気分/OL玉手箱/タイミングが分からなくて/役者魂/面接ジャンプ/唾液神話/養老の滝/知ったかぶりっ子/小芝居な女/母なる大地/ビジネスの罠/ポルシェ復活/みんなのサザン/緒形さんと、前編/緒形さんと、後編/F.F.Oな夜!/ゴルフ歴/YAZAWA/大掃除先生/最低3泊/the 失恋レストラン/レッツゴー台湾 前編/レッツゴー台湾 後編/麻布十番のママ/週一ムッシュ/催眠療法/おかんのアドバイス/買い物の神様/ふしぎ発見!
特別対談 リリー・フランキー&大宮エリー
 「童貞とガリ勉と、時々、女」
文庫版あとがき
解説 松尾スズキ

 いくつか紹介してみようと思う。長くなるかも(^^ゞ。
 【 】内は、タイトル名である。


【社外秘の女】
<わたしのOL時代。当時は割と可愛がられていると思っていたが、独立して一般常識が分かる様になると、あれは随分だったな、と顔が赤くなる――。>

 と始まって、広告代理店のOL時代の常識はずれで傍若無人(?)なエピソードがいくつか語られる。その後で、

<夜は盛況な会議室も日中は、意外とたくさん空いている。もったいないから予約して、よく活用していたわたし。そのテーブルの上で大の字になってお昼寝するのだ。デスクで突っ伏して寝るよりも集中して寝られる。サボっているという意識はなかった。10分寝るだけでスッキリし、仕事の効率もあがるから正当だと思っていた。いつものように会議室をとって寝ていたら、部長がたまたま入ってきてしまった。が、あまりの大胆かつ気持ち良さそうな昼寝っぷりに、そっと出て行く部長。続いて入ろうとした部下たちに、しっ、と口に指をあて、「今、駄目だ。寝てるから」。「えっ?」「大宮が、中で……」そろそろと撤退していく部長と先輩たち。起きて外に出たら、先輩方は小さなブースで窮屈そうに打合せをしていた。わたしったら随分、会社のペットとして定着してきたなあ、ありがたい、ありがたい、なんて思っていた。今思うとなんてヒドい社員だろう。
 片付けられない、資料を怖くて捨てられないわたしのデスクは、すぐに荷物置き場と化し、常にわたしの姿が見えない状態。「あいつのデスク、城壁ができてて、いるのかいないのか分かんないな」不便だから着席している場合は、皆にいると遠くからでも分かる様に、パソコンの上に旗を立てろと言われる。
 自分の席が荷物でいっぱいで座れないものだから、共有スペースの打合せデスクに避難し、キャッチコピーを考えるようになる。ある日、ちょっと向こうの共有スペースで打合せをしていた先輩がわたしの名を呼ぶ。
 「おい! 大宮!」
 何だろう、顔を上げると遠くから怒鳴られる。
 「股、開き過ぎでパンツ丸見えだぞ。見せんなよっ! 逆セクハラだろ!」
 普通、パンツって見えたらラッキーって男性は思うものじゃないの? 不快だと怒られた。
 いつしか、先輩たちがわたしをクライアントに紹介するときこう付け加えるようになった。「社外秘の女です」なるほど。この一言でわたしの会社に於ける状況が飲み込めた。>


【おかんの願望】
<元旦、おかんと温泉に行った。かねてからのおかんのリクエスト。結構貧しい生い立ちで、辛い思いもしてきたおかんは、これからの人生は楽しく生きる、と決めたそうだ。自分で楽しく生きてくれればいいのだが、娘と、というのが残念ながら外せないようだ。>

 ということで、温泉場のお風呂に入るのだが、またおかんはとんでもないことをしてくれる。
 まあ、その話はちょっと置いておいて、その後、

<小競り合いはあったが、お風呂がよかったのか、部屋に戻るとおかんの機嫌は回復していた。ほっとして湯上がりビールを取って戻る。すると、おかんがぽつりと言った。
 「今年はね、名前を変えたいんよ」
 最初、何を言っているか理解できなかった。わたしはおかんのことをお母さんとかママとか富久子という名前なのでふくちゃんと呼んだりするのだが、どうやら、その呼び名を変えて欲しいということだった。
 「人生が楽しくなるような気がする」のだそうだ。ならば協力しようではないか。一体何て呼んで欲しいの? と尋ねた。すると彼女はこう言った。「キャロット」え? おそるおそる確かめる。キャロットって、にんじんのことだよ? おかんはコックリとうなずいて、「でも響きが好きなんよ。外人みたいやろ」と言う。わたしもなぜか真剣になっている。「ねえ、キャ、っていうのが気に入ってるなら、キャサリンじゃ駄目なの?」と聞くと、考えに考えてキャロットにしたと言われた。
 それで幸せになるならと何度もおかんのことをキャロットと呼んでやろうと試みたが、どうしても呼べなかった。どうしても。>


【省略の功罪】
<なぜみんな、すぐ省略したがるんだろう。うちのマネージャーKは、ナチュラルローソンのことを、ナチュロー、と略す。しかも、言い直すのだ。>

 エリーさんは、言葉を省略する人に暗黙の差別意識とか優越感のようなものを感じてしまうという。それは被害妄想だし、その人には他意はなく、軽い気持ちでポップな感じで言っているのもわかってはいるのだが……

<そんなわたしも、過去に1度だけ、略してしまったことがある。
 大学生の頃、ちょっと好きだった男の子がいて、その子が田舎に帰るというので、なんやかんや理由をつけて、友達たちとその子の実家に遊びに行く事になった。彼のお父さんはペンション経営をされていたので、そこに男女6人が泊めてもらうことになった。まさに男女6人夏物語である。わたしは、好きな男の子と旅行に来ている奇跡に少々舞い上がっていた。それに、その部屋には彼のお父様までいる。そう考えると胸がばくばくしてきて、でもいつものわたしはもっと気さくでサバサバした男っぽい性格であったので、この好きな気持ちを悟られてはいけないと、ひとり、心の中で格闘していた。そのせいだったのだろうか。ちょうど、テレビで男子マラソンをやっていたのを見て、何故かわたしはこうみんなに叫んだ。
 「ねえ、みてみて、男マラ、やってるよ! 男マラ、男マラ!」
 そのとき微妙な空気が流れたのを感じた。何か悪い事でも言ったのだろうか。お父さんも気まずそうな雰囲気。
 「あれ? 男マラ、見ないの?」
 後日、その男の子に、「なんで略したの?」と聞かれた。「意味、多分知らないんだと思うけど、結構、驚いた」聞いても教えてくれないので家に帰って広辞苑をひっぱったら、男性のシンボル、とあった。
 ちょっとカジュアルなわたしを演出しようと略しただけで、そんな卑猥な言葉になるなんて!
 そういう苦い経験もあってか、わたしは略していいことって、あんまりないように思う。>


【外人気分】
<ときどき外人気分になることがある。わたしの外人のイメージは、太陽! 日差し! やたら露出! そして、ノーブラ! ノーパン! なのである。とにかく開放的で奔放なイメージ。それがわたしにとって、日本人と違う外国の方の特徴なのだ。現に、街で見かける外国の女性たちの多くはちょっと肌寒くてもタンクトップだったり、ピタッとした服を着ていてノーブラだから、乳首が、ポチッと見えていたりする。ニップレス、ニップレスと日本人がナーバスになっているのを、どう思っているのだろう。「ポチッと見えても、イイジャナイッ」と、なんか堂々とした開けっぴろげ感が、わたしにはとてもリゾートな感じがするのである。リゾートって、避暑地に行かなくても、案外、そういうスタイルでいること自体で充分リゾートな気持ちになるんじゃないかな、と思ったりもする。
 だからなのか、わたしはときどき、ノーブラのときがある。そしてノーパンのときもある。でも口を酸っぱくして言っておくが、同時は、ない。ノーパン&ノーブラはまだない。なんだか、スカスカするのが上下だと、とても心許ないのだ。そこまで開放的にはなれない未熟者のわたし。
 しかもノーブラのときは、ピタッ、とした服は着ない。必ずダボッとしたパーカーなどを羽織るので、「エリーの乳首なんて見たくねーよ」と周りの人を不快にさせることもない。ノーパンのときも、ジャージだったりするから、誰に悟られる事もない。ひっそりとわたしだけしか知らない秘密の開放のはずだった……。>

 のだが、とんでもないことが起きてしまう。2度ほど。
 それは、この本を読んでのお楽しみ(^^ゞ。


【面接ジャンプ】
 就活で最初に面接に行った時の話である。
 番号が呼ばれ、立ち上がり、面接室に入り3人の面接官の前に置かれたパイプ椅子に座る。 
 ところが緊張していたエリーさんは座った途端に、忘れていた尿意が……

<かなり時間を経ていた尿意だったので、これはきちんとリスクヘッジしておいたほうがいいとわたしは判断した。
 「すみません、席について早速でなんなのですが、御手洗いに行ってもよろしいでしょうか」
 わたしは自己PRも名前も名乗らないうちに懇願した。面接官はくすりともせず、出て右手ですと言った。
 「すみません」軽く会釈して御手洗いへ。間一髪。だいたい尿意を催してから2時間は軽く我慢できるという、膀胱のキャパシティーに自信があるわたしだったが、5本の指に入るぐらいの緊急事態だったから仕方ない。
 鏡を見て深呼吸し、このハプニングに対する動揺を鎮める。よかった、これで面接に集中できるじゃない。前向きに考え、落ち着いた状態で廊下へ戻った。
 そこでわたしは、あっ、と声を出したのである。なんと、その長い廊下には、同じようなドアがいくつも並んでいる。1121、1123、と、番号が、小さなプレートに刻まれている以外にドアを区別するものがない。ど、どの部屋だったのだろう。廊下にはもう案内の人もいない。目眩がしてきた。(中略)
 ひとつひとつ、ドアに耳を当ててみた。どの部屋も声がしない。嗚呼! ノックして開けて、中で他の面接をしていたら気まずい。参ったなぁ、早く戻らないと。手が汗ばんできたとき、ふと、天井付近のところが、どの部屋もガラス張りになっているのに気づいた。
――ジャンプすれば、中が見えるじゃん!
 ここかなと思える部屋の前に立ち、思い切りジャンプ。が、脚力が足りなかった。もう少し。今度は、助走をつけて飛び上がった。
 見えた! そして……目が合った……。その部屋はまさにわたしが面接を受けていた部屋で、わたしは面接官全員と空中で目が合ってしまったのである。一瞬だったが3人ともびっくりした表情をしていた。神妙な顔で中にはいったが、何を聞かれても上の空だった。>


【ビジネスの罠】
<空港というのは誰しも少し、爪先立ちになるところだと思う。背伸びしてしまうというか、気取ってしまうというか。「これからわたしは旅にでるんですッ」という格上な気持ちになるのは、わたしだけだろうか。
 初めてビジネスクラスに乗ったときなどはその格上感が肩に重くのしかかって窒息しそうになったのをよく覚えている。
(中略)
 根っからのエコノミー人間でも、この数時間は、郷に入れば郷に従え。ビジネスのリッチな雰囲気を乱さぬよう、この階級に紛れたい、馴染みたい。どうにかボロがでないようにしなきゃ。そんなことを座ってすぐに考えていた。>

 フライトアテンダントさんが、「テレビなど出して、お楽しみください」と勧めてくれたのに、見栄を張って出し方を聞けず、どうしたらテレビを出せるのかわからなくて断念して、隣の外人さんのテレビを覗き見していた。そして……

<しばらくして急に疲れて来た。ビジネスの空気にあたってしまったようである。テレビは諦めたとして、どうしても隣の人や遠くの人もやっている、あの足支えを出したい。足をのばして背もたれも倒したい。そう思って、まず目でボタンを吟味。描いてある絵から、おおよその見当をつける。そして、とりあえず足関連から攻めることに。思い切りボタンを押した。すると、ガッ、という音をたて勢い良く両足があがったのである。え? なんで? 思いのほか高くあがり過ぎてすごく妙な体勢に。これじゃ両足を水平に投げ出したテディーベアである。いかん、足、上がり過ぎ、早く下げねば。が、どのボタンが下がるボタンか分からない。あたふたしていたら、隣の外人が話しかけて来た。「Are you OK?」「Sure」何故か強がってしまう。しかも足を下げる気ないもん、と、すまして深く座り直す。彼はそのまま会話を続けて来た。「I am Lucas,and you?」テディーベアの格好で、わたしは自分の名前を言った。ルーカスおじさんは微笑んで、エリーベアと握手をした。>


【おかんのアドバイス】
<おかんはいつもアドバイスをくれる。でも一方的なアドバイスなので、あんまり彼女の思いを受け止めてあげることが出来ない。>

 おかんのアドバイスは、的外れなものばかりなのである……

<そんな訳でわたしはおかんのおすすめをことごとく拒否している。だけど、何かひとつでも「それいいね!」と言ってあげられたらいいのに。喜ぶだろうに。そう常日頃から思っていた。そして遂に、最近になって一つだけ、いいかなと思うアドバイスをもらった。
 「お風呂あがりにオリーブオイルを全身に塗ると肌がつるつるになるで」ボディークリームよりも安いし肌に馴染むし、きれいになると言うのだ。そういえば、おかんの肌は最近、潤っている。DHCとかもオリーブオイルだった気が。早速台所にあったのを、風呂上がりに豪快に全身に塗ってみた。割といい感じ。報告するとおかんはすごく喜んでくれた。わたしもなんかおかんの知恵を役立てられて嬉しかった。
 しばらくしてデザイナーをしているオシャレ男のIと久しぶりにイタ飯を食べた。
 「なんか、きれいになったんじゃない?」そう言ってくれたIに、わたしはちょっと嬉しくなり、得意げに近況報告をした。「ああ、なんか最近、おかんに勧められて、体にオリーブオイル塗ってるんだよね」「え? それって、これ?」Iは目をひんむいて、パンにつける用に出されたオリーブオイルを指差して言った。そうだよ、とわたしは言いながら、確かに、なんかこのオリーブオイルと同じ匂いが自分の体からするなあと思った。Iは、静かにさっきまで食べていたパンをテーブルに置き、それきり手をつけることはなかった。
 やっぱ、ダメだった。おかんのアドバイス。>


 これで終わることにする(^^ゞ。
 ほんの一部だが、なんだか選んだものには下ネタが多いような気がする(~_~)。
 笑えるものが多いのだが、「緒形さんと」では、俳優の故・緒形拳さんとの触れ合いが書かれ、ジンワリと心に沁みる内容である。
 大宮エリーさんが脚本家への道を歩み始めたのは、緒形さんの一言だったということである。

 「特別対談」のリリー・フランキーさんとの対談もおかしくて笑えるが、なかなか深いことも話している。
 気持ちがちょっと落ち込んでいるようなときに読めば、元気をもらえるような本である(~_~)。


<今日のお薦め本>
『生きるコント2』 大宮エリー 著、文春文庫、580円、12.03.10. 第1刷

<後記>『週刊文春』への連載時にも読んでいますが、このエッセイは何度読んでも面白いです(^^ゞ。
 前回の時も紹介しましたが、エリーさんのおかん(お母さん)がとてもユニークな方のようで、今回も何度かネタにされていて面白いです。
 「解説」を書いている松尾スズキ(作家・演出家・俳優)さんが、エリーさんについて、こんなことを書いています。

<ほんとなんというか、太刀打ちできませんよ、この人には。
 でも、ほんとはすーごく繊細でいつもクヨクヨしたりオドオドしたりしてる一面もわたしは知っていて、そのギャップが周りにいろんな人を引き寄せるんだろうなあと思ったりします>

 大宮エリーさんは、思ったことをズバッと言ったりやったりする方のようですが、他人のことを気遣いすぎるところもあるようです。そのためにかえって、おかしなことをしてしまうところがあるようです。
 そんな繊細さと、その反面の常識にとらわれない傍若無人(?)ぶりが切なくもおかしいのかもしれません。

 今日は晴れると思ったのに、曇り時々雨という天気でした。
 朝の散歩でも霧雨が降っていて、原っぱには水溜りがたくさんありました。

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 今日は、カミさんは一日花嫁の着付けで出かけました。SORAもちょっと寂しそうかな(^^ゞ。

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 夕方の散歩の時は、青空も少し見えてきていました。

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 明日は晴れるようです(~_~)。


生きるコント〈2〉 (文春文庫)
文藝春秋
2012-03-09
大宮 エリー

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