『氷姫』




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               〔公園のサザンカがまだ咲いています〕


 はじめて読むカミラ・レックバリという作家の、スウェーデンのミステリー『氷姫』を紹介してみる。
 これは、“エリカ&パトリック事件簿”シリーズの第1弾である。

 第Ⅰ章のプロローグは次のように始まる。


<その家は人の気配もなく、寂しかった。冷気が家の隅々まで沁(し)み込んでいた。浴槽の中には薄い氷の膜ができている。彼女は薄い青みがかった色あいを帯び始めていた。
 横たわる彼女はまるでお姫さまみたいだ、と彼は思った。
 彼が座り込んでいる床は氷のように冷たかったが、気にならなかった。手を伸ばして彼女に触れてみた。
 彼女の両手首についている血は、とうに固まっていた。
 彼女への愛情は、今ほど強いことはなかった。彼女の腕を撫でていたが、まるで肉体から脱け出してしまった魂を愛撫(あいぶ)しているようだった。
 彼はその場を立ち去るとき、振り返らなかった。これが永遠の別れではなく、また会えると知っていたから。>


 この部分は斜体文字で書かれている。
 実は、物語は6章からなっているが、それぞれのはじめに本文と異なる斜体文字で書かれた短い文章が入るのである。

 この最初の部分では、浴槽で美しい女が死んでいるらしいが、いろんな疑問が起きる。
 女はどうも自殺らしい? 「彼」っていったい誰なのだろうか? 女と「彼」との関係は? ……。

 
 舞台は、スウェーデン西南部ブーフスレーン県のフィエルバッカという人口1千人の海辺のリゾート地である。
 夏は避暑客で活気を呈するが、冬の間は住人だけの寂しい町になる。
 両親を交通事故で失った伝記作家エリカ・ファルクは、遺品整理のために故郷の家に戻っていたが、家の整理ははかどらず、仕事もなかなか進まず出版社からはプレッシャーを受けていた。

 彼女は気分転換に散歩に出かけることにした。外は零下15℃だったので何枚も重ね着をして、足早に丘に上っていった。
 頂上近くになった時、エイラートという男が両手を振り何か叫びながらやってきて「あの女(ひと)が、死んでいる」と告げる。
 エイラートは、毎週末やってくるアレクサンドラ(アレクス)・ヴィークネルという女性の古い家に、前日の金曜日に訪れて水道管やボイラーを見回ることになっていたのだが、そこでアレクスが浴室で死んでいるのを見つけてしまったのである。
 驚いたエリカはエイラートといっしょに家に行く。
 彼女は、アレクスの全裸死体の第2発見者になってしまった。
 
 実は、20年以上も前だがアレクスはエリカの少女時代の親友だった。しかし、アレクスが12歳の時に一家は突然引っ越してしまい、それ以来の交流はなかったのである。
 アレクスの死は自殺と見られたが、エリカはそれが信じられなかった。
 そこで、アレクスの夫や両親などに話を聞いて回ることにした。
 両親も自殺とは思っていなと語った。そんな話をしているうちに、両親からアレクスの追悼文を書いてくれと頼まれてしまう。

 そんなところに現われたのが、やはり幼馴染のターヌムスヘーデ警察署刑事パトリック・ヘードストルムだった。彼は子どものころからエリカのことが大好きだったのだが、エリカの方はそれを感じてはいたものの問題にしていなかった。
 彼はエリカへの思いを封印して結婚したが、うまくいかず離婚していたのである。
 そんな二人だったが、それぞれがアレクスの死の謎を探りつつ協力していくことになる。

 警察の捜査で、アレクスは自殺でなく他殺だと断定された。
 エリカとパトリックが、アレクスの半生をたどっていくと、その哀しい素顔がしだいにわかってくる。
 同時に、彼女と関わった画家、漁師、富豪などとの人間関係や、町の風土に封印されていた複雑な人間模様と衝撃の過去が次々と明らかになっていく。
 そして、別の殺人事件が起きる。

 はたしてアレクスを殺害したのは誰なのか? 第二の殺人事件の犯人は誰なのか? 二つの殺人事件に関係はあるのか?
 驚愕の事実がわかってくる。過去のある男の失踪事件ともかかわっていた。
 戦慄と哀歓の漂う良質の北欧ミステリーである。


<今日のお薦め本>
『氷姫 ― エリカ&パトリック事件簿 Isprinsessan』 カミラ・レックバリ 著、原 邦史朗 訳、集英社文庫、977円、13.03.06. 第5刷(09.08.25. 第1刷)

氷姫―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)
集英社
カミラ レックバリ

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<後記>古い話になりますが、昔「マルティン・ベック・シリーズ」というスウェーデンのミステリー・シリーズがありました。
 ペール・ヴァールーとマイ・シューヴァルという夫婦作家が書き続けた警察小説で、面白くて読みふけったものです。
 懐かしいのですが、このエリカ&パトリック事件簿も面白いです。現在までに第7弾まで邦訳されているようなので、読んでみたいです。

 それはさておき、スウェーデンというか北欧諸国は福祉が充実していて理想社会というイメージがありますが、この本を読んでいると、そこに住む人たちは日本人と同じ人間なんだと感じることができます。
 悩み、傷つき、喜び、悲しみ……人間というものは、どんな国や社会でも同じようなものなんだと思えます。
 それは、この物語はミステリーではあるものの、登場人物たちの描き方が巧みだからだと思います。
 著者の分身ともいえる主人公のエリカが、アレクスを扱った本を書こうと決心するのですが、こんなことを思います。

<現在、題材は推理小説の形を取り始めている。しかしこれは、彼女がことさら好むジャンルではなかった。本当に関心があるのは人間たちとその関係、そして心理的モチベーションだ。大抵の推理小説が、血にまみれた殺人と背筋をぞくぞくさせる興奮を優先するために失っているもの。エリカは陳腐な決まり文句が大嫌いで、自分が書きたいことは偽らざるもの――人がなぜ他人の命を奪うという最悪の罪を犯せるのか、ということをエリカなりに説明すること――だと、感じていた。>

 この物語はミステリーとしてもですが、人間の心情を描いた傑作でもあると思います。
 それに、物語に取り込んでいるスウェーデンが抱えているさまざまな社会問題が、他の国でも共通するようなものなので、どんな国の人が読んでも共感できるんだと思います。
 そんなところが、このシリーズの面白さのキモなんでしょうね。

 主人公のエリカとパトリックの恋愛の行く末も気になるし、警察署内の人間模様も面白いし、家庭内暴力に悩むエリカの妹で二児の母アンナのこれからも気になります。
 エリカにアレクスの死を知らせたエイラートという老人の意外な行動が、最後にアッ! と驚かされます。バカ親父も同じようなことをやってみたいです(^^ゞ。

 一昨日(21日)からの写真を並べてみます。
 一昨日は昼間は晴れていましたが、夕方はだいぶ雲が出てきていました。

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 昨日(22日)は曇りがちの一日でしたが、カミさんは昼前にチビりんの子守りに行きました。
 夕方の空もどんよりとしていました。

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 昨夜から激しい雨が降りました。今朝は晴れてきましたが、朝の散歩の時は朝日はまだ雲に隠れがちでした。

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 公園には水たまりが残っています。

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 しだいに青空が広がってきました。

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 公園のヤブツバキの花が、だいぶ落ちています。

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 帰り道では、朝日が雲間から顔を覗かせ始めました。

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 SORAはエサのあとは、廊下で日向ぼっこ寝をしています(^^ゞ。
 今、カミさんが帰ってきました。SORAが喜びました(^^♪。
 今日はどんどん気温が上がって、4月ころの気温になるようです。

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