『死体泥棒』




画像

             〔子どもたちがたくさん遊んでいた夕方の公園〕


 パトリーシア・メロという作家のミステリー『死体泥棒』を紹介する。
 「第一部 死体」、「第二部 泥棒」という二部構成で、最後に短い「エピローグ 一年後」で終わる。
 
 プロローグは、次のようなものだ。


<     1

 暑さにベッドでぐったりとしていた。
 回廊から足音が聞こえる。だが、大声を出そうにも、気力が湧かない。
 ひそひそ声。けつまずいた。何か壊したな。笑い声。
 階下の自転車店は閉まっている。この界隈(かいわい)の子供らが徒党を組んで、近所をスパイしてはおもしろがっている。屋根に上がったり、木に登ったり、明かり取りの小窓に身をねじこんだりして。遠くから路上を走るソープボックスの音が聞こえてきた。やんやの口笛。
 また始まった。あのインディオのばあさん、やっぱりおかしいよ。そう言いながらスラミータが立ち上がり、裸のまま、バスルームに行った。
 階下で老婆が大声を出している。インディオの女。昨日俺に、あたしゃアクリ椰子(やし)の繊維で編み物ができるんだよと話してくれた。
 スラミータは俺と寝ると、興奮する。ねえ、何か仕事を見つけて、こんなところ引き払ってさ、どこかほかのところ探そう、と言う。クソばばあ、とまた言った。これで何度目だろう。
 俺はここが気に入っている。ここ、コルンバが。俺のいないあいだに持ち物を引っかきまわす子供らにも慣れた。インディオの老婆も好きだし、釣りに行けば、老婆のことを真っ先に考える。
 バスルームでスラミータがバケツに水を満たしているのが聞こえる。無駄だ、やめときな、と俺は言った。スラミータは爪先立ちになってドアまで行くと、窓の外に並んでしゃがんでいる子供らに後ろから不意打ちをかけた。
 子供らが歓声を上げ、笑いながら逃げていく。
 ようやく俺は目を開けた。
 今日は日曜だ。>


 いったいどこの話だろう? と思わされるが、ブラジルの話である。
 一人称で語っている「俺」が主人公で、スラミータは恋人で、なんと警察官である。
 ブラジルには行ったこともないが、いかにもブラジルの雰囲気が出ているプロローグである。

 この本について、池上冬樹さんが『週刊文春』(2月18日号)の「ミステリーレビュー」で、次のように書いていた。

<パトリーシア・メロの『死体泥棒』(ハヤカワ文庫 700円+税)はドイツ・ミステリ大賞第一位に輝いたブラジル・ミステリである。自家用飛行機が川に墜落したのを目にした「俺」は、パイロットの死を確認したあと、機内にあったコカインを盗んで現場を去る。だが、仲間のせいでギャングに借金を背負い、ある犯罪計画をたてる……。
 高評価なのは、優しく思いやりのある小悪党の肖像が実によく描かれてあるからだろう。容易に感情移入してしまうし、語りは実にスピーディで、計画・実行を綿密に描いて息詰まる展開となる。死体泥棒の話なので気色の悪い描写もあるが、それでも後味のいい仕上がりにしているのも手柄のひとつだろう。>
 ちなみに、採点は★★★★だった。

  
 舞台は、世界有数の湿地帯パンタナルが広がり隣国ボリビアとの国境沿いに位置する、ブラジル南西部の田舎町コルンバである。
 南半球の夏である1月で、灼熱の太陽が照りつけ“何もかもがすぐに腐ってしまう”ような季節である。
 サンパウロから事情があって流れてきた「俺」は、パラグアイ川に釣りに出かけて、小型飛行機が突然爆発し川に頭から突っ込むのを目撃する。
 墜落現場に駆けつけると、パイロットはかろうじて生きていたが、助けようとしたものの事切れてしまう。
 そこで見つけたのは革のリュックサックに入った1キロ余りのコカインだった。
 俺はコカインとパイロットの腕時計も頂戴して、その場から消えた。

 小遣い稼ぎのつもりで、アパートの大家である階下の自転車屋の主人に話を持ちかけ、手に入れたコカインを売りさばくことにした。
 ところが、自転車屋のほうが一枚上手だった。気がついた時には裏のビジネスにずるずると引き込まれ、ついにはギャングから何万ドルもの借金を負ってしまった。
 窮地に陥った俺だが、墜落したパイロットの身元を知り、ある計画を立てる。それは「死体を盗む」ことだった。
 そのために、死体保管所に職場が変わっていたスラミータの協力を得ようと説得にかかったのだが……

 この男、死体を盗んでいったい何を企んでいるのだろうか?
 はたしてその計画は、巧くいくのだろうか?
 主人公と恋人スラミータの関係はどうなるのだろうか?

 「俺」という若者は、優しくて親切で情に厚いのだが、どうもその場その場で適当というか相手の気に入りそうなことを言ったりやったりしていくので、おいおいそんなことして大丈夫なのかい?! とツッコミを入れたくなる(^^ゞ。  
 そんなルールにとらわれずに他人を助けようというような発想をするのがブラジル人のようである。
 そんなブラジル社会や人間くさいブラジル人を描いていることが、単なるミステリーに終わらない本書の面白さかもしれない(^^)/。


<今日のお薦め本>
『死体泥棒』 パトリーシア・メロ 著、猪股和夫 訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、756円、16.01.25. 発行
 著者はブラジルの人気作家だということですが、カバー裏から紹介しておきます。
<1962年ブラジル、サンパウロ生まれの作家、戯曲家、脚本家。8冊目の著作にあたる本書は、ドイツでベストセラーとなり、ドイツ・ミステリ大賞(翻訳作品部門)第一位に輝いた。スイス在住。>

死体泥棒 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
早川書房
パトリーシア メロ

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 死体泥棒 (ハヤカワ・ミステリ文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


<後記>本書のドイツ・ミステリ大賞の選評に「卓越した語りや巧みな構成に加え、キャラクターが際立っており、世界水準の文学の域に達している」というのがあったそうです。
 こんな国があり、こんな考え方や行動をする人たちがいるんだ、と教えてくれる作品で、純文学のような香りもあります。

 主人公の「俺」もなかなか面白いのですが、恋人のスラミータが読み進むうちに魅力的に思えてきました。
 仕事には真面目に取り組み、人の哀しみを知っており、包容力もあります。いざという時には機転が利くし、沈着果敢にことに立ち向かっていくという強さも持っています。そして女性としての魅力もあります(^^ゞ。

 いったい結末はどうなってしまうのだろうか? とハラハラドキドキと読み進められます。面白いです。
 
 今日(8日)は、あちこちで霧が出たようです。うちのほうでも昼ごろまで海から霧笛が聞こえてきました。
 SORAのエサを買いに行った以外は、のんびりと過ごしました。
 夕方の散歩に出ると、雲は少なく夕日が見えましたが、なんだかぼんやりしていました。

画像

画像

 公園の花壇です。チューリップをはじめ、いろんな花が咲いています。

画像

画像

 原っぱに行って、ウロウロしてから帰ってきました。

画像

画像

画像


 明日(9日)は午前中は曇りで昼ごろから雨になり、しだいに雨脚が強くなるようです。
 気温は平年並みですが、夜になって下がってくるようです。

"『死体泥棒』" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント