団塊バカ親父の散歩話

アクセスカウンタ

zoom RSS 『藤田嗣治 手しごとの家』

<<   作成日時 : 2009/12/06 23:47   >>

ナイス ブログ気持玉 17 / トラックバック 3 / コメント 7



画像


 藤田嗣治(ふじだつぐはる)という画家がいた。レオナール・フジタとしても知られる方である。
 おかっぱ頭にロイドメガネという国籍不明の独特の風貌と、オシャレなダンディーとしても有名だった。
 独創的な乳白色の下地による絵画スタイルで、大きな名声も獲得した画家である。

 その藤田嗣治の仕事ではない、私的領域である「手しごと」をまとめた本の紹介である。

 まず本書の「はじめに」から、藤田さんの簡単なプロフィールとこの本の内容についての解説を紹介してみる。
 (藤田嗣治さんの詳しいプロフィールについては、ここでうまくまとめられています。絵も何点か見られます)

<一八八六年、明治十九年の東京に生まれた画家・藤田嗣治(ふじたつぐはる)は生涯のほぼ半分をフランスで暮らし、晩年にはフランス国籍を取得、カトリックに改宗してその洗礼名からレオナール・フジタを名乗るようになったのち、一九六八年にスイス、チューリッヒの病院で亡くなりました。八十年を越えた長命な人生で、日本とフランスに限らず、世界を股(また)にかけて波乱に満ちた生活を送ったうえに、作風もかなり振幅が大きく、一つの像を結びにくい表現者といえるでしょう。
 その藤田について、二十世紀を生きるわれわれが知っておきたいのは、彼が油彩画の本場ヨーロッパに自ら出ていって勝負し、相応の成功を果たし、作品を売って自活できた最初の日本人美術家だったということです。(後略)>

 彼は、東京美術学校を卒業後、最初の妻を日本に残し、パリで絵を描くことに邁進する。8年後の1921年にその独特の「乳白色の肌」と精緻な表現で絶賛を浴びるのである。
 彼のおかっぱ頭は、貧乏で散髪にも行けず、自分で髪を切っていたころを忘れないために、その後もそれを続けていたという逸話もある。
 フランスに帰化するきっかけは、第二次世界大戦中に、嘱託されて数多くの戦争画を描いたが、戦後それが基で「国賊」とか「美術界の面汚し」などと批判され、追われるように日本を離れたのである。
 そんな波乱万丈の生涯だったが、本書ではそういう画業そのものではなく、彼の生活に密着した「手しごと」にスポットを当てたものである。

 その内容については、次のように書かれている。

<この本では、これまでほとんど知られることがなかった、藤田の「画家」以外の側面をご紹介します。「絵画制作」という仕事の合間を縫って、身のまわりの日用品を手づくりし、パリの蚤(のみ)の市(いち)や旅先で各国の職人仕事を買い集め、自宅を自分好みに、まるで彼の作品のように古今東西を異種混淆(こんこう)しながら装飾していった藤田。その仕事場(アトリエ)では、画作だけでなく、染色、裁縫や木工といった手しごと、写真撮影、そして日記や手紙などの書きものが進められ、たいへん濃密な時間が重ねられました。>

 本書は、そんな藤田さんの「手しごと」を、パリ南郊エソンヌ県にある晩年の旧宅“メゾン=アトリエ・フジタ”に残る、彼の手づくりの品や遺愛の品を辿ることから紹介を始めている。
 本のタイトルは、その旧宅になぞらえた私的領域の“手しごとの家”という意味である。

 内容を目次から拾うと、次のとおりである。

はじめに
第一部:住まう
 第一章 住まい(メゾン)=アトリエ……「私たちの家」/家の模型(マケット)/アトリエの画家
 第二章 インテリア……室内装飾のセンス/実現された「理想の家」
第二部:手づくりする
 第三章 裁縫……縫う、布に関わる/「芸術家は宜しく芸術品を身に纏うべし」
 第四章 大工仕事……絵画と額、年記のずれに秘められたもの/偉大な「日曜大工」
 第五章 絵付け……食器/木箱
第三部:集める
 第六章 フランスでの収集――パリの蚤の市……パリの年中行事/ジュイ布/平皿/人形
 第七章 旅の思い出――中南米と東アジア……私は死ぬまで旅行者でおわろう/「旅の時代」の画室/染織へのこだわりと収集品との惜別/旅の記憶としてのエッセイと挿絵
第四部:写す・写される
 第八章 被写体として……有名写真家が愛したおかっぱ頭/土門拳がとらえた画家の横顔/一九五〇年代、パリの藤田
 第九章 アマチュア写真家として……知られざる写真家、藤田/デッサンとしての写真/「先生はカラーフィルムを絵具と同じようにしてしまったのだ」/蘇(よみがえ)った五〇年代のスライド
第五部:書く
 第十章 日記と絵手紙……夫人が手元に残していた日記/ニューヨークからの絵手紙/「旅の時代」のスクラップブック/「書く」ひと、藤田を読み解くこと
おわりに
藤田嗣治略年譜
参考文献


 さて、彼のつくったものについては、本書を見てもらうしかないのだが、彼の書いたものからほんの少しだけ紹介してみる。
 本を何冊か出しているし、日記もつけていたようで、なかなかの文章だと思う。
 1938年4月〜5月の沖縄旅行から戻ったのちに、東京朝日新聞に連載した「夢の国琉球」(『随筆集 地を泳ぐ』所収)から2か所ほど紹介する。

<小児の時から今日迄も屡(しばしば)見る不思議な夢がある。風の死んだ真黒闇の晩、墨を流したやうな大洋を、孕んだ目映しい白帆の船に乗って果しもなくすべつて行くのである。太平洋に相違ない。黒潮の上だ。琉球への見当らしい。「琉球へおじやるなら草鞋はいて」と鹿児島人が漫吟したも道理、珊瑚礁の島である。宝の島であり夢の国である。>

 もう一か所は、珊瑚礁の海で目にした魚の記述である。いかにも画家らしいとういうか、藤田さんらしい。

<絵具屋の見本の色のありつたけの、枝状、花状、果実状の珊瑚の林は、光る砂上に飾られて、蝶々魚(アンラーガーサー)みのかさご(ハネユー)つのだし(ホタテイー)等と言ふ外人の様な魚族、名古屋城の金のシヤチホコ其儘(そのまま)のアバシ、背黒赤腹のグルクン、赤と黄の棒縞の股引をはいた、カタカシ等の熱帯魚は、爽涼夢の如き龍宮城のレビユーガールの様に其間を踊つて居る。>

 だいぶ長くなってきたので、最後に著者が本書の「おわりに」に書いていることを紹介する。

<この一見、気軽で華やかに思える本の隠しテーマは「遺品」です。画家・藤田嗣治が遺した「もの」について書きました。彼には近年、展覧会や出版が続いており、ここでの履歴や絵画作品の紹介は最低限にとどめています。一般の耳目を集めがちな「戦争画」にあえて触れなかったのは、それが彼の「男」としての公的な側面、使命(ミッション)だったからです。私的な、明治生まれの男性にはめずらしい「女性的」な側面こそを描きだしたいと思いました。
(中略)
 本書では、もはや歴史上の公人となった創造者・藤田嗣治の画家以外の活動領域を示す、「手の痕跡(こんせき)」が感じられるものにしぼりました。人一倍、プロ意識の強い画家が、公開や販売を想定せず、あくまで自分たちのために手間と時間を惜しまずつくりこんだ非売の品々や書きものは、私的な遺品の「耐用年数」を超えて公的な文化資源として扱われるべき時期を迎えていました。それらは藤田が最晩年までこだわりつづけた「家」とそこに残された「手しごと」が核となっており、本書は結果的に「メゾン=アトリエ・フジタ」自体を紹介し、文化資源として位置づける役割も果たしたのではないかと思います。そして、いささかなりとも、画家としての、本業の藤田理解にも資することを願います。(後略)> 

 とても多くの彼の手しごとの作品(遺品)の写真が添えられ、緻密な考証がなされていて読み出があるし、興味深く見ていける本である。
 写真を見ているだけでも楽しめる(~_~)。 


<今日のお薦め本>
『藤田嗣治(ふじたつぐはる) 手(て)しごとの家(いえ)』 林 洋子 著、集英社ヴィジュアル版、1155円(税込)、09.11.22. 第一刷発行
 著者の林 洋子さんは、次のような方です。(奥付より)
<1965年、京都市生まれ。京都造形芸術大学准教授。東京大学文学部卒業、同大学院、パリ第一大学博士課程終了。東京都現代美術館学芸員を経て現職。博士(パリ第一大学)。専門は美術史、美術評論。著書『藤田嗣治 作品をひらく――旅・手仕事・日本』(名古屋大学出版会、2008)で、第30回サントリー学芸賞、第26回渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン ジャパン特別賞ほかを受賞>

<後記>是非一度、図書館か本屋の立ち読みでもいいですから、この本をめくってみてください。引き込まれると思います。
 藤田さんは、自分で縫った服やつくった靴を履いていたこともあるらしい。裁縫の技術は貧乏な時代に仕事として身につけたということです。
 テーブルの表面にメガネ、トランプ、鍵、ハサミ、時計、パイプなどが象嵌してあったり、手づくりの箱に描かれた子どもの絵などを見たりすると、こんな風に手づくりのもので生活に彩りをつけていけたら、どんなに楽しいだろうかと思うのです(^^♪。
 まあ、画家というか美術家だからこそできたことかもしれませんが、少しでも近づきたいと思ったのでした(^^ゞ。

 今日は朝夕の散歩以外は引きこもっていましたが、いい天気でした。出かけなかったことを、ちょっと悔やんでいます(~_~)。

画像





テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 17
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』
 中学3年のときだったが、友達が薦めてくれた本を借りて読んだことがある。  衝撃的だった(^^ゞ。 ...続きを見る
団塊バカ親父の散歩話
2010/04/08 23:52
『藤田嗣治 本のしごと』
 一昨年の12月に『藤田嗣治 手しごとの家』を紹介したが、それにつながる藤田嗣治(ふじた つぐはる)の“本に関わる仕事”をまとめた本が出た。  『藤田嗣治 本のしごと』である。著者は、前の本と同じで、林 洋子さんである。  紹介してみようと思う。 ...続きを見る
団塊バカ親父の散歩話
2011/07/08 00:03
『藤田嗣治 手紙の森へ』
               〔今日の夕散歩時の帰りの西空〕 ...続きを見る
団塊バカ親父の散歩話
2018/02/16 23:49

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
私、この本気になって先日本屋で立ち読みしました。やっぱり買おうかしら。京都であった展覧会でかれの身の回りのものを書いた作品があってその時からどんな生活をしていたんだろうと気になっていたんです。興味深いですよね。
それと舟越桂が作ったおもちゃとか猪熊源一郎があつめたおもちゃも写真や美術館でで見たことがありますがなかなか味わい深いのです。本も出ているようです。作品としてでなく家族などに日常に手作りしたというのがいいです。遊び心のある遊哉さんも作り貯めてみてはいかがですか。いいものが出来そうです。
urara
2009/12/07 10:30
↑すみません、猪熊源一郎は猪熊弦一郎の間違いでした。
ご存知慌てもの
2009/12/07 10:34
☆ ご存知慌てもののuraraさん(^^ゞ、この本、気になって立ち読みしてましたか〜。よかったら手に入れてみてください。時々眺めるだけでも楽しくなる本だと思います(^^♪。
 藤田嗣治さんの絵は、日本的な手法と西洋的なそれとが、うまく融合していて大好きです。
 展覧会をご覧になったんですね。彼の絵には、自分でつくったものとか集めたものを描いたものが多いようです。この本にも、そういうのが掲載されています。面白いです(~_~)。
 舟越桂がつくったおもちゃなんて、味があるでしょうね。猪熊弦一郎が集めたおもちゃというのも興味があります。
 自分の好きな画家が売り物でない家族のためにつくったものには愛情が溢れているような気がします。いいものです。
 いろいろ手づくりをしていきたいんですが、問題はセンスですね(^^ゞ。洒落たものがなかなかできませんが、がんばってみたいと思ってます(^^♪。
遊哉
2009/12/07 14:11
こういうセンスに溢れた人って、ほんと憧れます。
私も刺繍で小さなタペストリを作ったり、家族それぞれのランチョンマットを端切れで作って名前を入れたりなどしましたが、いかんせんセンスがないのでたいした出来ではありません(~_~;)
でもまあ、作る過程が楽しかったりしますけど。
この本、本屋で立ち読みしてみよっと(笑)
ところで、“最初の妻を日本に残して”とありますが、その人はその後どうなったんでしょうね。最初というからには次の妻もいたんでしょうが・・・。
なんだか、気になります(笑)
キーブー
2009/12/07 15:22
☆ キーブーさん、センスに溢れた人って、羨ましいですね。まあ、センスがあったから画家になったんだとは思いますが(~_~)。
 小さなタペストリでも、ランチョンマットでもつくるだけ大したものです(^^ゞ。そうなんですね、何かをつくるって、その過程が面白いんですよね。センスは別として、われわれ凡人は楽しみながらいろいろつくっていきましょう!(^^♪。
 この本は出たばかりなので本屋にあると思います。是非一度、立ち読みしてみてください(~_~)。
 “最初の妻”に反応しちゃいましたか〜(^^ゞ。この奥さんとは日本とパリとで別れて暮らしていたので、結局は別れたようです。その後、フランス人と結婚したりなど、正式・内縁、性別・死別などいろいろあって、最後の30年余は5度目の日本人の奥さん君代さんと、落ち着いた(?)結婚生活を送ったということです。
 ちょっと羨ましいけど、バカ親父にはできそうもありません。というか、今からじゃ遅すぎますね(~_~)。
遊哉
2009/12/07 15:57
おかっぱ頭にロイドメガネ、という説明に「あ、あの人」と遠い昔の美術の教科書を思い出しました。
リンクされた詳しいプロフィールもじっくり見て来ましたよ。とても近代的なセンスを感じる絵ですね。「猫(争闘)」の描写も、ああいう構図も素晴らしいし、晩年の子供をモデルにした絵は玖保キリコのイラストはここから来てるのかな・・なんて思ったり(シニカルな子供のイラストです)。
4人の奥さん、それぞれの恋にも色々なドラマがありそうですね。
前記事、5周年記念のコメントは後ほどさせて戴きますね^^。
リサ
2009/12/07 16:12
☆ リサさん、美術の教科書に載ってましたか。独特の風貌で忘れられないかもしれませんね(^^ゞ。
 なかなか面白い経歴の方でしょ。当時のパリで画家として独り立ちするのは大変なことだったと思います。奇行と言われるようなこともしていたそうですが、努力の人なんでしょうね。
 すてきな色のいい絵ですよね。「猫(争闘)」は面白いですね。猫好きとしては、堪らないんじゃないでしょうか(~_~)。
 子どもの絵などは玖保キリコのイラストに似てますね。バカ親父もそう感じました。あの子どもの絵はこの本にも載ってますが、自分でつくった箱に描かれているものです。
 4人じゃなくて、最終的には5人の奥さんですが、それぞれにドラマがあったんでしょうね。すべての方の写真は載っていませんが、見た感じでは共通点がありそうです。自分のイメージの一人の女性を追い求めていたのかもしれません。
 前記事へのコメント、どんなものになるのか、ちょっとコワい(~_~)。
遊哉
2009/12/07 18:17

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
『藤田嗣治 手しごとの家』 団塊バカ親父の散歩話/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる