団塊バカ親父の散歩話

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zoom RSS 『海うそ』

<<   作成日時 : 2014/04/21 20:03   >>

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 梨木果歩さんの書下ろしの新作『海うそ』を紹介してみる。

 梨木さんについては知っている方が多いだろうが、そうでない方もいると思うので奥付から紹介しておく。
 (青字の下線の作品は以前に紹介しているので、お時間があればクリックしてお読みください)

<1959年生まれ。作家。小説に『西の魔女が死んだ』『家守綺譚』『沼地のある森を抜けて』『冬虫夏草』(以上、新潮社)、『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(理論社)、『村田エフェンディ滞土録』『雪と珊瑚と』(以上、角川書店)、『f植物園の巣穴』(朝日新聞出版)、『ピスタチオ』(筑摩書房)など、エッセイに『春になったら苺を摘みに』『渡りの足跡』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』(以上、新潮社)、『水辺にて』(筑摩書房)、『「秘密の花園」ノート』(岩波ブックレット)などがある。>

 プロローグは、こんなふうに始まる。


< 龍目蓋(たつのまぶた)―― 影吹(かげふき)   イタビカズラ/ヤギ 二階屋

 山の端から十三夜の月が上っていた。
 月はしっとりと深い群青の夜空の、その一角のみを白くおぼろに霞めて、出で来た山の黒々とした稜線から下をひときわ闇濃くしていた。昼間の猛々しい暑さが嘘のようになりをひそめ、ときおりゴイサギの気味の悪い叫び声が辺りを制する他、至極静かなものであった。
 また鳴いた。飛びながら鳴いている。ゴイサギは連れ立って夜の水辺を目指して来たのだろう。私も部屋を借りている家の爺さん婆さんとともに、水浴びをしようと湖の端までやってきたところだった。爺さん婆さんは水浴びはしない。そこから湖の対岸にある湯治場まで湯浴みに出かけるのである。湖には龍目池という名が、あるにはあるが、実際のところ、池と呼ぶには少々大きい。私自身は湖に勘定しているが、しかしまた表立ってそう呼ぶのも気が引ける、そういうどっちつかずの大きさなのだった。>

 時は昭和のはじめ、あと数年で十年になる、というころである。
 語り手は、K大学の文学部地理学科に所属する研究者で秋野という。夏季休暇を利用しての現地調査で、遅島という島を回っていた。亡くなった研究室の主任教授の以前の調査を補完しようとするものだったが、残された調査報告書を読むうちに、この島そのものに心惹かれるものがあったのである。
 人文地理学の性格上、遺跡も歴史も調べるし、統計も取れば植生も調べる。場合によっては民話も採集するという調査である。

 遅島というのは、こんな島である。

<日本列島、大小あまたある島々のなかでも大きめの、そして南寄りの島の一つだった。緯度的には南九州とほぼ同等であるが、黒潮の傍流が周辺海域を流れているので、島の低いところの植生は南西諸島とそれほど変わらない。また南西諸島よりは遥かに本土との距離も近く ―― 本土側の海辺に立てば、よほどの悪天候でないかぎり、いつも陸地が見えている ―― 行き来も容易である。大きさの割に、それほど人口が増えなかったのは、差し当たって最寄りに大きな都市がなかったのと、山がちで、人が多く移住するには今ひとつ利便性もなかったせいであろう。島全体は右向き、つまり本土側を見つめたタツノオトシゴのような形状で、南北を貫いて背骨のように山脈が連なる。>

 そして、また……

<古代、修験道のために開かれた島であった。明治初年まで、島には大寺院が存在していたのである。権現信仰を芯とした教義で、開基から数百年経つうち最盛期僧坊は二十近くを数え、一時は西の高野山と呼ばれるほどの隆盛を誇った。紫雲山法興寺という名であった。江戸末期には、さすがにその勢いも衰えていたらしいが、それでも中世の時代からある七つの寺院は健在だったらしい。>

 こんな島に秋野が心惹かれたのには、理由があったのである。
 
<遺構はしかし、藪の中にばかりあるのではない。地名にも現れる。まだ寺院のあったタツノオトシゴの尻尾部分には行ってみないが、さぞかし山また山の、荒れ果てたところであろうに、護持谷、権現川、胎蔵山、薬師堂、等々の名が、報告書には出てくるのだ。読んでいるうち、その地名のついた風景の中に立ち、風に吹かれてみたい、という止むに止まれぬ思いが湧いて来たのだった。決定的な何かが過ぎ去ったあとの、沈黙する光景の中にいたい。そうすれば人の営みや、時間というものの本質が、少しでも感じられるような気がした。
 私は一昨年、許嫁を亡くし、また昨年、相次いで親を亡くしていた。>

 目次は次のようになっている。

 龍目蓋 ―― 影吹 イタビカズラ/ヤギ 二階屋
 龍目蓋 ―― 角小御崎 アコウ/ニホンアシカ モノミミ
 龍目蓋 ―― 森肩 珊瑚樹/ミカドアゲハ 灘風
 龍目蓋 ―― 波音 ―― 森肩 ミツガシワ/カモシカ カギ家
 森肩 ―― 耳鳥 芭蕉/キクガシラコウモリ 耳鳥洞窟
 耳鳥 ―― 沼耳 イタヤカエデ/コノハヅク 根小屋
 沼耳 ―― 呼原 オニソテツ/ツマベニチョウ 良信の防塁
 呼原 ―― 山懐 ハマカンゾウ/クイナ 口の権現・奥の権現
 山懐 ―― 尾崎 ―― 森肩 ウバメガシ/イセエビ 恵仁岩
 五十年の後

 目次には最初に、秋野が一人で、あるいは平家の落人の村と言われるところに住む梶井という若者と廻った島の地名があり、その次には出会った植物や動物の名前、そして調査の鍵となったものが書かれている。
 秋野は、調査をしていくうちにこの島に隠されていた謎を知っていくことになるのだった。

 この島は、修験道の島でもあったが、民族宗教もかつては存在していた。
 モノミミという南西諸島のユタ、ノロにあたるものがいて、病気を治したり、探し物を当ててもらったり、死んだ人からの伝言を伝えたりしていた。
 しかし、明治初年から全国に吹き荒れた廃仏毀釈の嵐が、この島も襲い五百年以上続いた寺院も破壊され、モノミミも姿を消していたのである。

 秋野はこんなことを思う。

<暴虐のかぎりが尽くされるのを、寺院側は何の抵抗もせず、大人しく見ていたのだろうか。ひとの心の奥の、精神的なものに対するこれほどの破壊行動はあるまい。武器を持ってでも抵抗すべきだった、というのではないが、その辺りの葛藤がどうなっていたのか知りたかった。興味、というような悠長なものではない、むしろ、底知れぬ地の穴にともに引きずり込まれるような喪失感への共鳴が、自分の身のうちのどこからか響いて止まず、なんとも息が詰まるような切羽詰まった不安に後押しされ、取り縋るように、私はそれを知りたいと思うのだった。切実に、思うのだった。>

 許嫁(いいなずけ)や両親の死という喪失感にさいなまれていた秋野の心は、この島に漂う喪失感に共鳴するとともに、その不安からの解放を希求していたのだろう。 

 秋野は自然豊かな島の調査を続けていくうちに、侵入を拒まれるような感じを受ける場所や、“良信の防塁”という目的の不明な石垣の連なりの謎や、“恵仁岩”という海中からそそり立つ岩の伝説に出会ったりしていく。
 そして、“海うそ”という言葉にも。
 海うそというのは、この島の人たちがニホンアシカを呼ぶ時の名だったが、蜃気楼だという話も聞いたのだった。
 “海うそ”とはいったい何なんだろう?

 秋野の調査は、そんな謎の答えをはっきりとは解決できぬままに終わる。とはいえ、つき合った島人との温かい人間関係から、彼の喪失感や不安感はしだいに解き放たれていくのだったが……この後も、その続きを彼はたどっていくことになる。
 そして、日本は戦争へと突入していった。調査を基にした論文を書くこともできないままだった。

 最終章は「五十年の後」となる。
 80歳を越えた秋野は、縁あって再びこの遅島を訪れることになった。
 はたして、謎は解決され、真実は現れてくるのだろうか? 


<今日のお薦め本>
『海うそ』 梨木果歩 著、岩波書店 刊、1620円、14.04.09. 第1刷発行

<後記>この物語は、なかなか深いことを語っているような気がします。
 それはこの世の“諸行無常”ということでもあるし、愛するものを失うことのいたたまれない哀惜の情を、人はいかに変容していくのか? ということなのかもしれません。
 植物のこともいろいろ出てくるし、いかにも梨木さんらしい優しさにあふれたちょっと不思議な物語といえると思います。

 思わず苦笑いをした一節がありました。五十年後の秋野と彼の次男との会話です。

<「母さんもよくやってたと思うよ。あんな能天気な母さんじゃなかったら、とても父さんみたいな慢性鬱とはやっていけなかったよ」
 「―― 慢性鬱」
 そんなふうに思っていたのか、と、ここで初めて子の視点に立って自分を見た思いがした。
 「母さんは徹底してポジティブ、前向き、未来志向のひとだからね」>

 以前のブログに書いたことがありますが、バカ親父はカミさんから慢性の鬱だというようなことを言われたことがあります。
 秋野の家庭はうちとよく似ていたようです(^^ゞ。


海うそ
岩波書店
梨木 香歩

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 一昨日の夕方以降の写真をまとめてみます。
 まず、花などの写真。

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 公園の階段脇のツツジ。

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 白モクレンの新緑。

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 スギナとタンポポ。

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 アカツメクサが咲き始めました。

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 ハナミズキが満開です。

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 ヤマザクラのさくらんぼ(^^ゞ。

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 チューリップ。

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 斜面のツツジ。
 SORAの寝姿、いろいろ。

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 ちょっと肌寒い日が続いているので、丸まって寝ていることも多かったです。

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 足を伸ばして、後ろ足2本の上に前足2本が載っています(^^ゞ。

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 今日(21日)は肌寒くて、朝方は雨で昼までは曇り、午後から断続的に雨が降って、夕方には一時激しく降りました。
 夕方の散歩に出た時も降っていました。

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 SORAは元気に、公園の斜面を上っていきます。

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 原っぱに行くと、番と思われるカモがいました。雨の日になると来るようです。

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 SORAが近づいていくので、2羽はゆっくりと歩いて逃げます(^^ゞ。

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 ときどき、草の下に嘴を突っ込んで何かをついばんでいました。
 キジバトもいました。

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 ほかにもスズメがたくさんいました。

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 一番上の写真は知らない間に撮れていたものです(^^ゞ。今日の夕方のバカ親父の足元で、レインコートと長靴です。
 明日(22日)は、曇りときどき雨のようです。今日よりは少し気温も上がるようです。

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